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「スイミングキャップ」 著者: こちら亀有公園の反対側様 投稿日: [2003.08.15]


1 泳ぐ音
 
今をさかのぼること、六年前のこと。
 
情報雑誌で評判となった東京・原宿にある洋菓子店。
オープンテラスのイートインコーナーを備えた気軽な店構えで、女子高生から中年女性まで女性客が絶えなかった。
ある週末でのことだった。
「美味しいかった・・・。でも、いいんですか? ごちそうになっちゃって」
「いいの、いいの、この位」
レジで代金を支払う女子高生と、妹のような女子中学生の二人連れが会話していた。
「今度はどこ行こうか?」
「お姉さんにお任せ」
歩き出した二人は、三月の日差しの中で顔を見合わせて話に熱中した。
 
「水泳の練習、きつくないですか?」
「そうね。でも好きだから・・・」
「それにあの水着。ハイレグだし、薄くて体に張り付く感じに見えるけど、恥ずかしい感じしないですか?」
「まあね。でもプールの飛び込み台に立ってこれから泳ぐって時は、水着は体の一部になるの。そう、キャップまでもね」
「へー」
「ね、それはそうと、”ですか?”なんて丁寧語なんかいいのよ・・・。タメグチでいいよ。だって姉妹じゃない」
「そうですね・・・。あ、また言ちゃった!」
思わず顔を見合わせて笑う二人だった。
「ね、次どこ行きたい?」
「おねえちゃんに、おまかせ!」
 
それから三ヶ月後。
 
梅雨空から霧雨が舞い降りる六月の深夜、都内の私立T高等学校でのこと。
零時近く、構内を警備員が見回っていた。
プールの近く迄来ると、地面に何かが落ちているのを確認した。
そばに寄ってそれを拾い上げて見ると、それは水泳用のキャップだった。
「誰かの落し物か・・・? まあ警備室で拾得物として保管するより、プールサイドにでも置いておく方が、落とし主には都合がいいかな」
そう思った彼は、プールを囲う鉄柵の付け根にある隙間からプールサイドへスイミングキャップを差し入れた。
「うっ」
警備員は思わず手の甲に大きめの水滴が落ちるのを感じ取り、素早く手を引いた。
『霧雨のはずなのに・・・。たまたま大粒の雨が混じったのか?』
 
それから警備員はプール周辺に異常がないことを確認し、その場を立ち去ろうとした。
そして次の瞬間。
突然、プールに誰かが飛び込むような音が響いた。
「誰かいるのか!? プールで泳いでいるのか!」
警備員は思わず叫んだ。
だが応答はもちろん、誰かが慌てて逃げる気配もなかった。
それどころか数秒間程、バシャバシャと水面を泳ぐような音が継続した。
「誰だ!! 返事をしなさい!」
その直後、辺りはシーンと静けさを取り戻した。
 
不審に思った警備員はプールサイドに上がり見回したが、誰の姿もなかった。
続けて更衣室の中も点検すると、女子更衣室にて、異常事態を発見するに至った。
それは、その学校の女子生徒で、既に息絶えた遺体であった。
着ている制服に多少の乱れはあるものの、その状況からは死因の見当も付かず、それゆえ自殺か他殺かは警察の鑑定を待つしかなかった。
 
死因は青酸化合物の摂取による薬物死だった。
それが、自ら服薬したものか、他の者によって服薬させられたものか、警察の捜査は難航した。
自殺としては動機が見当たらないし、他殺にしては目撃情報も殺される理由も浮上しなかったからだ。
亡くなった女子生徒は水泳部所属で特に水泳にかける情熱は人一倍で、自殺にするには疑問が残るものの、結局は自殺として取り扱われた。
 
それからというもの、誰もいない深夜のプールで、水に飛び込んで泳ぐ音を聞いたとか、近くの公団住宅の上位階からプールを見下ろすと、まるで水泳選手が潜水をしているようにスイミングキャップのようなものが水中を動いていたとか、体験談が飛び交った。
 
学校関係者は評判に影響するのを恐れて、生徒や父母に、事件のことや奇妙な現象の噂話など口外しないよう徹底した。
その一方で知名度のある僧侶を招いておはらいを実施した。
それが効を奏したのか、おはらい以降、妙な現象は途絶えた。
 
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2 盗撮
 
それから三年後。
西島亮司(ニシジマ・リョウジ)は大学を中退してしまい、現在飲食店に勤務していた。
高校時代は暴走族に属していたが、三年の時、初日の出の大暴走を機に引退。
以後一浪して大学に進学するも二年ちょっとで辞めてしまった。
 
仕事先が日曜定休日なので、とある日曜日に大学に通っていた頃の友人、野々村悠太(ノノムラ・ユウタ)のアパートに訪れていた。
友人といっても、ストレートに大学に進学して一つ年下の悠太は弟分の扱いだった。
 
「大学辞めちゃって、後悔ないっスか?」
悠太は遠慮がちに問い掛けた。
「その話はもうよせ。やっぱ大学生ってガラじゃねぇんだよ。まあ入学金を無駄にしやがってと親からはさんざん言われたが、内心は真面目に働いていることを喜んでら」
「はあ・・・」
「おい、そんなことより、退屈しのぎにいいもの見に行こうぜ。そこの高校で水泳部が練習してんだよ。西側の団地の屋上なら見えそうだな」
「え? まさか?」
「いいじゃんかよ! 日曜もせっせと熱心な練習に励む水泳部のおねえちゃん達を見学して、これからのオリンピック候補を応援するんだよ。いいからカメラとズームレンズ用意しろ」
「は、はあ」
 
野々村悠太はデジタルカメラではないが、従来型の一眼レフカメラを所持していた。
二人は近くにある集合住宅の屋上から、それを使って、水泳部の練習風景を盗撮することになった。
 
「おお! あのコかわいい! 撮っちゃおう〜!」
団地の屋上からカメラのファインダーを通して学校のプールを見ては、声を上げながらシャッターを押す亮司。
カメラを悠太から完全に奪い取っていた。
「プールから上がった直後の水着の張り付きが堪らんぜ! お、あいつケツへの食い込みを直してら。いいねぇ、ムラムラするぜ」
上機嫌にシャッターを数回押しては、大声で状況を口にしていた。
「くそ! ヤローは邪魔だ。とっととどきやがれ!」
そんな亮司に悠太は半ばあきれていた。
『この人、水着フェチか?』
と思いつつも自分も肉眼でプールサイドの女子部員達に目を向けた。
指導するコーチの姿もあるが、厳しい雰囲気でもなく和気あいあいとしたものだった。
揃いの競泳水着を身にまとった女子部員達の、のびのびと練習に励んでいる姿は、和やかでセクシーだった。
体に張り付くフィット感、水に濡れて放つ独特の光沢感、やはり悠太にも刺激的だった。
 
この日、カメラのフイルムを全て使い切るまで盗撮は続けられた。
ところが翌週も亮司は悠太を盗撮に誘ってきた。
「え? またっスか? これ以上はやばいっスよ」
「これでおしまいにするからよ。もう一度だけ気に入ったコを撮りたいんだよ」
結局、もう一度同じ場所で水泳部員達を撮影したが、まずい事態に陥ってしまった。
 
盗撮を終えて団地の敷地から出た所で、二人組みの三十歳代の男二人に呼び止められた。
「君たち、そこの屋上にいただろ!?」
彼らが学校関係者であることがすぐにわかった。
亮司は反射的に駆け出そうとしたが、体付きのいい職員に腕をつかまれてねじ上げられ、あえなく”御用”となってしまった。
結局は二人はそのまま学校の職員室へ連行され、名前や住所を聞かれ上で、厳重注意を受けた。フィルムも抜き取られて処分されてしまった。
これまでもこうしたことが何度もあり、いずれも二人が犯人かと疑われたりもした。
そして、再度盗撮を行ったらしかるべき処置をすると脅されて解放された。
 
「あーあ、せっかくの楽しみがなくなっちまった」
校舎を後にして校門へ向かいながら亮司はぼやいた。悠太は苦笑いするしかなかった。
すると、校門の所で二人の女子生徒が談笑していた。
しかも亮司と悠太を見た途端、手で口元を覆いながら大笑いを始めた。
「あのコたち、何をあんなに・・・。でも二人ともかわいいっスね」
悠太が不思議そうな顔で言った。
「ああ・・・? くそ! あいつら!」
亮司の反応に、一方の女子生徒が叫んだ。
「リョウちゃーん、久し振りじゃん!? 盗撮なんてだめだぞー!」
悠太は亮司に尋ねた。
「もしかして知り合いスか?」
「まあな。左にいるのが俺の族仲間の妹で裕香(ユウカ)。右がその大の仲良しで政美(マサミ)。確か二年生のはず」
 
亮司は女子生徒達に合流すると言った。
「何だ、お前らここに進学してたのか? 前に会ったはもう二年前位だったよな」
政美が答えた。
「まあね。ところでさ、あたし水泳部なんだよ。誰がカメラで撮っているかと思えば、まったく!」
「なーんだ、第一発見者はお前だったんか? 中学の時よりおっぱい大きくなったな」
「セクハラじじい!」
「誉めてやったんだぜ。しかしあの中にいたとは気付かなかった・・・。もしかして裕香、お前も水泳部?」
裕香が答えた。
「いいえ、あたしはテニス。泳ぎは得意な方だけど、あのピチピチの水着に抵抗あってさ・・・。ね、それよりこんな所で立ち話もナンだから、どっかでお茶しない?」
亮司が初対面の悠太を紹介すると、四人は最寄駅の方へ歩き出した。
 
途中、悠太はフォトショップに立ち寄って、現像依頼していた写真を引き取った。それは最初に女子水泳部員達を撮影した写真だった。
駅前のコーヒーショップで四人は仕上がった写真を適当に分けてながめた。
「あー、絶対これあたしのお尻だ。やだー」
「見て見て、隅の方で男子のモッコリ、しっかり映ってる!」
そんな裕香と政美のやり取りの傍らで、悠太は一枚の写真をじっと見つめていた。
「ね、ねえ、政美ちゃん」
「え?」
「水泳部の女子は皆、揃いの競泳水着だったはずだよね」
「そうよ、それが何か?」
「一人だけ違うコが・・・。まるでこっちをにらみ付けているみたいだ。こんなコいたっけ?」
そう言って悠太は写真を政美に見せた。
「誰、これ? こんなコ、部員にはいないよ」
一同は思わずその写真をテーブルの中心においてじっと見た。
すると、裕香と政美はハッと顔を見合わせ、政美がやや震えた声で口を開いた。
「去年、先輩から聞かされた話で、三年前に水泳の女子部員が自殺したって。一時はその人の幽霊が出るとか・・・。おはらいしたからもう大丈夫だとも・・・。水泳部はそれを境に水着のデザインを一新したんだって」
「じゃあ、この写真は・・・」
 
悠太の脇で、亮司は呆然としていた。
「俺よぉ、こういう話苦手なんだよ。しかも撮った張本人なんだぜ・・・」

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3 後を追う者
 
政美が属する水泳部の水着は、ネイビーブルーを基調とし、サイドに白、赤、ブルーの三色の曲線ラインを描いたデザインだった。
ところが、その写真の片隅にポツリと写っていた女子部員の水着はパープルカラーで、左脇腹の辺りに学校名のイニシャルであるTの字を崩したロゴが描かれていた。
 
写真を見ながら四人の会話は続く。
「そう言えば去年、三年だった先輩が、自殺したコの霊はスイミングキャップに宿っているとも言ってたよ」
政美が言った。
「去年の三年っていうと、・・・三年前は一年生か」
悠太が反応した。
政美はさらに話を続けた。
「なんでも、おはらいの時に慰霊碑を建てようかって話があったらしいけど、生徒に気味悪く思われるから取りやめになったとか・・・。その代わりに誰かがそのコのキャップを花壇に埋めたらしいの」
 
結局、例の写真は、悠太の親戚にお寺の住職がいるというので、そちらに送って供養してもらうことに決まった。
亮司は嫌そうだったが、対照的に悠太は興味を抱き、他に何か情報が得られたら教えてほしいということで、裕香と政美に携帯電話の番号を教えた。
 
次の日曜日。
この日も亮司は悠太のアパートを訪ねたのだが、あいにく不在だった。
『いつも日曜は暇してるくせに今日に限って。しかもバイクがぶっ壊れてわざわざ電車で来たってのに・・・。やっぱ電話しときゃ良かったか。カメラをさんざん使ったし、一緒に捕まって説教されたし、心霊写真の件もあるから、焼肉でもおごってやろうと思ったのにな』
そんなことを思いながら、つい例の高校の方へ足が向いていた。
『水泳部のかわいいコ、今日も練習してんのかな?』
凝りもせず、お気に入りの水泳部員の姿を思い浮かべ、校門の近くまで来た。
ところが、校門の内側に、自分達を捕まえた学校職員の一人の後ろ姿が目に入った。
『やっべえ! 大人しく帰ろうっと!』
 
結局、亮司は引き返した。
校門が面している道路から一つ目の角を曲がって裏道に入った瞬間だった。
一人の女子高生がじっとたたずんでいた。
両手でスポーツバッグを持ち、顔を下に向けて静止していて、長めの前髪をだらりと垂らしていて表情はわからない。
『こいつもここの生徒か? 何か不気味な女だな』
そんな思いを抱いて、彼女の前を通り過ぎた。
 
すると。
不気味な女子高生は亮司の後を追うように歩き始めた。
その女子高生とは30メートル位の距離があった。振り返って見るとますます不気味に思えた。
すれ違った何人かの通行人は、不気味な女子高生を気に留める様子もなかった。
『あんな不気味な女、誰も何とも思わないのか・・・?』
 
亮司が角を曲がると、”彼女”も曲がって来た。少し距離が縮まっていた。
『気のせいかな、俺の後を付いて来るような感じだ・・・』
思わず歩くペースを速め、次第に小走りになる亮司。
 
亮司は逃れたい一心で、本来曲がるべき道でない所を右に曲がった。
曲がってある程度歩いた所で振り返る。
うつむいたままの”彼女”はやはり付いて来た。
何故かその距離が20メートル程に縮まっていた。
『やべえ、間違いなく俺の後を付いて来てる。俺が曲がった後走って来たのか・・・』
 
亮司はさらに細い路地へ通じる角を今度は左に曲がった。
そして、振り向くと、やはり不気味にうつむいたままの”彼女”の姿があった。
しかもその距離は15メートルにまで縮まった。
『やめろ、やめろ。来るな。きっとあの心霊写真の女なんだ! 俺が一体何をしたって言うんだよ、写真撮っただけじゃねぇか!』
そう心で叫びながら、見境なくいり組んだ小道の角を曲がった。
相変わらず”彼女”は追跡して来る。
しかも徐々に距離が縮まっていく。
 
そこへ突然の強風。
”彼女”の短めのスカートがまくれ、スカートの下の見えたものは、パープルカラーの競泳水着のようだった。
『間違いねぇ! あの写真に一つだけ写ってた水着の色だ!』
 
その後、目に付いた角を二度、三度、右や左へと曲がった。
もはや方向感覚は失せていた。
走っても、角を曲がる度に”彼女”との距離は縮まっている。
 
そして、ついに行き止まりの道に差し掛かってしまった。
『まずい。俺は一体どうなるんだ・・・。背後から襲ってくる気か』
もはや振り返る勇気もなかった。
『ホラー映画みたいに、顔を上げた途端すごい形相で迫ってくるとか、それを見たら心臓発作で死ぬとか・・・。やめてくれ、俺は死にたくない!』
だが、このまま背後から襲われるのも嫌だと思った亮司は覚悟を決めて振り返った。
 
すると、もはや”彼女”の姿は消えていた。
『助かった!』
ホッとして汗を拭った亮司。
ところが。
 
右肩をポンと何者かが叩いた。
反射的に右を見た。
「あー!!」
亮司は我を忘れて叫んだ。脇に”彼女”がいたからである。
不意を突かれて腰を抜かしたように座り込んでしまった。
そんな亮司に”彼女”は何かを手渡そうとした。
手先を震わしながら亮司はそれを受け取った。
それは水泳用のキャップで、古ぼけた感じだった。
『ス、スイミングキャップ・・・?』
 
次の瞬間、周りの景色が一変した。
”彼女”は例のパープルカラーの競泳水着姿に変わっていた。
しかも先程亮司に手渡したスイミングキャップを被っている。
亮司自身も、男性用競泳パンツ姿で、二人きりでプールサイドに腰を下ろしていた。
「こ、これは一体?」
するとようやく”彼女”が口を開いた。
「ね、一緒に泳ごう・・・」
妙にエコーが掛かった声だった。
有無も言わせず”彼女”に手を掴まれ、亮司は一緒にプールへ飛び込んだ。
「泳ぐの気持ちいいでしょ・・・。ここは二人だけの世界よ。抱き合って泳ぐのも悪くないでしょ・・・」
まるで人魚に誘惑されたようだと亮司は思いながら、徐々に意識が遠のき、催眠術にかかたようにもうろうとしてしまった。
 
抱き合いながらプールを一往復泳いだ所で、ふいに”彼女”は泳ぎを止めた。
”彼女”は水着のショルダーを外して形の良い乳房を露わにすると言った。
「気持ち良くしてあげる・・・。パンツを脱ぎなさい」
亮司はもはや、”彼女”に命じられた通り動くことしか頭になく、言われたまま競泳パンツを脱ぐと、プールサイドへ放り投げた。
すると”彼女”は、亮司の股間に手を伸ばしてペニスを愛撫し始めた。
それが勃起するのはあっという間だった。
「プールサイドに腰掛けなさい・・・。こっち向きに・・・」
命じられた通り亮司が行動すると、”彼女”自身はプールに浸かったまま亮司の股間に顔を埋め、ペニスを口に含んだ。
ピチャピチャと音を立てて、奉仕する”彼女”。
亮司のペニスは、はちきれんばかりとなった。
「気持ちいい? 水中セックスなんていうのはどう・・・?」
 
しかし、その直後、”彼女”の表情が一変した。
「セックスよりも気持ちいいこと知ってる・・・? それはね・・・、アハハハハハ・・・、ハハハハハ・・・」
”彼女”は悪事を働く魔女のような表情になり、甲高い笑い声を上げた。
そして、被っていたスミングキャップを外すと、それを亮司の下腹部に置いた。
すると、まるで生き物のようにそれは勝手に動き出し、亮司の体をあっという間に掛け登り、首筋に到達した。
 
「う、何だこれは!」
そこで亮司は催眠状態から覚めた。
その途端、スミングキャップが首をぐいぐいと圧迫してきた。
「く、苦しい・・・、た、助けてくれ・・・」

4 連鎖
 
亮司が心霊写真の女に追われた日の翌日、月曜日。
午後四時過ぎ、悠太の携帯電話が鳴った。
電話機から聞こえる声は裕香の声で、脅えたような口調で名前を告げるなり話を始めた。
「悠太さん、助けて! 誰かがあたしの後を・・・。きのうはリョウちゃんが・・・」
「何だって。今どこ?」
裕香から学校の最寄駅近くのハンバーガーショップで待っていると告げられた。
この日の講義は既に終わっており、すぐに掛け付けることにした。
裕香の学校の最寄駅は当然ながら悠太のアパートの近くである。
 
悠太が待ち合せ場所で裕香を見つけ、顔を合わせた途端、裕香は涙を流し始めた。
周囲の好奇の目を意識しつつ、悠太はテーブルに着いて裕香に尋ねた。
「どうしたの・・・? そう言えば仲良しの政美ちゃんは?」
「あのコ、今日は学校休み。三十九度近い熱が出て・・・。あたしも朝から微熱があって体がだるいのよ。だから部活も休み。悠太さんは何ともない?」 
「ああ、俺は別に」
「ここじゃまわりの人に聞かれるから・・・。ね、雄太さんのアパートへ行っていい?」
「え? まあ、散らかってるけど、それでよければ・・・」
二人は店を出て悠太のアパートへ向かった。
 
「リョウちゃんが・・・」
「リョウさん、どうかしたの?」
「やばい目に遭ったらしくてさ、学校裏の路地で気を失っていたの」
「え!?」
それから悠太は、裕香から昨日の日曜日から今日にかけての話を聞かされた。
裕香によれば次のような話だった。
 
昨日部活が終わって帰る際、表通りのコンビニ店に行きたくなって、近道である学校裏の路地を通ると、そこで亮司が気を失って倒れていた。
彼に声を掛けて起こすと酷く脅えていて、古ぼけたスイミングキャップを手にしていた。
裕香はそれを見て、自殺した女子水泳部員の霊が宿っているというキャップだと確信した。
裕香はそれを預かると、亮司の無事を確認した。
それに対し亮司は、「大したことねえよ、ちょっと貧血起こしたみたいだ。キャップは誰かの落とし物だ」と強がりを言い残して何とか一人で帰った。
裕香はともかく学校に引き返し、スイミングキャップを花壇の適当な場所に埋めてしまった。
 
ところが事態はそれだけでは済まず、裕香より遅い時間まで部活に励んでいた政美は、何者かに引っ張られるように後ろ向きにプールへ転落した。
ちょうど一年生部員がコースを泳いでいて、危うく頭と頭が衝突する一歩手前だったということだった。
しかも彼女は発熱して今日学校を休んだ。
そして裕香も微熱に悩まされ、しかも何者かが後を追跡してくると言い出す始末。
 
悠太のアパートに着いても裕香は脅えがやまなかった。
「きっとあの写真のせいなんだ。あれを見たあたし達、取り憑かれたんだよ」
一通りの話を終えた裕香は、やや青ざめた表情で言った。
「そんな・・・。写真はとっくにお寺で」
「それだけじゃだめなんじゃない?」
「でも俺には何も・・・」
「ね、今度は霊があたしを狙っているのよ・・・。怖いよぉー」
思わず裕香は悠太に抱き付いた。
「大丈夫だよ。ここに来る時は何ともなかったでしょ」
「そうだったけど・・・」
悠太は裕香を抱き留めながら、高校生とはいえ、成熟した女の体を実感した。
「そうだ、良かったらめしでも食べていく? 大したことはできないけど、カレー位だったら」
「え、いいの? 悠太さんて優しいんだね」
「いや、まあ・・・。ともかく材料がないから買いに行かないと・・・」
悠太は照れ臭そうに笑い、言った。
 
それから二人は手をつないで近くの食品スーパーへ食材を買いに行き、狭い台所で協力しながらカレーライスを作った。
途中、裕香は携帯電話で母親に、友達の家で夕食をご馳走になると伝えた。
調理が終わると、テーブルを挟んで向かい合いながら食事をし、話を弾ませた。
もはや裕香は微熱など治ってしまったようである。
 
「ね、裕香ちゃん、お兄さんてリョウさんの友達で元暴走族だよね。でも、裕香ちゃんの学校って程度の高そうで、いい学校って感じがするけど」
ふと、悠太が話題を投げ掛けた。
「え、いい学校? 少し入学試験が難しいだけだよ。影でやばいことやってるコはいるし・・・。男の先生が女生徒に手を出したってうわさも聞いてるよ」
「へー、そうなんだ」
「あたしはまあまあマジにやってるけど、アニキが反面教師になってるのかも・・・。でもアニキって根はいい奴だし、暴走族に入ったのもそれなりに理由があるのよ」
「例えば?」
「原因はオヤジ。女にだらしないとこあってさ。愛人作って子供まで産ませたらしいの」
「え、不倫?」
「アニキがまだ一歳か二歳の頃だったらしいけどね」
 
食事を終えると、一緒に後片付けをした。
狭い台所ゆえにどうしても体と体が触れ合ってしまう。
でも二人ともそれが心地良い感じだった。
「ね、ふと思ったんだけどさ、あたし達ってユウタとユウカで、”ユウ・ユウ”だね?」
「あ、ああ。そうなるね」
いい雰囲気で笑みを合わせる二人だった。
 
やがて後片付けも終えた後、裕香はこんなことを言い出した。
「ねぇ悠太さん、いいカメラ持ってるんでしょ? 良かったらここであたしを撮ってみない?」
「え・・・? ああ、いいよ」
「じゃあサービスして水着姿なんてどう? 今日体育の授業で水泳のはずだったんだけど、熱っぽかったから見学だったの。だから水着は濡れてないし」
「じゃあ・・・」
裕香はバッグからスクール水着を取り出して見せた。
「うちの学校、スクール水着と言っても、結局はほとんど競泳型のオリジナルなのよ。まあ、水泳部のコよりはローレグだけどね。・・・じゃあ、お風呂場で着替えてくる」
「狭いから気を付けて」
 
殺風景な悠太の部屋での水着撮影。
悠太は大きめの窓に取り付けたカーテンを閉め、それを背景に撮影することにした。
「きれいでセクシーに撮って」
それからは立たせてポーズを適当に取らせたり、体育座りやM字開脚座りなどのポーズで写真を撮った。
悠太は次第に裕香の魅力に取り付かれる自分を意識した。
最後に、前のめり気味に立って、胸の谷間を見せ付けるようなポーズを取った時だった。
 
悠太は急な立ちくらみに襲われて立っていられなってしまった。
かろうじてカメラを足元に置くと、畳の上に四つん這いになってしまった。
何とか前に視線を向けると、裕香は苦しそうに目を閉じて、胸元を右手でさすりながら座り込んでいた。
「まさか、霊のしわざ・・・?」
悠太は思わずつぶやくと、次第に意識がもうろうとする感じに陥った。
すると急に裕香から低い女の声が発せられた。
「ユウタ・・・、アタシト・・・、セックスシヨウヨ・・・」

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5 疑惑
 
悠太も裕香も感覚的には夢の中のようだった。
悠太は完全に操られているように衣服を脱ぎ捨て、パンツ一枚になった。
裕香の上にのしかかり、水着の上から彼女の乳首を舌先で舐めたり、突っついたりした。
「ア、アアア・・・、モットヤッテ・・・、ユウタ、スキヨ」
相変わらず裕香の声は別人のように低い声で、自身の両手の指先で水着の上から乳首を愛撫し、喘ぎながら脚を大きく開く。
悠太は、裕香の股に顔を埋め、舌先で水着の上から裕香の恥丘をなぞる。
舌先が恥丘を数往復すると、感じる芯の方へと移動を開始。
裕香は低い喘ぎ声を上げながら、水着の上半身を剥ぐと、今度は直接自身の乳首を指先で愛撫し始めた。
そんな状況が続くうち、裕香の若い肉体はみるみる愛液を分泌し、水着の股間部に濡れ染みができて徐々に広がっていった。
 
やがて裕香は、右手で乳首を摘み、左手の指先を水着の股間部の内側へ入れ、オナニーを開始した。
一方、悠太はパンツも脱ぎ捨て全裸になると、勃起したペニスの先を裕香の左乳首に押し当て、摩擦による刺激を味わうようにこすり合わせた。
まさに本能をさらけ出すように命じられた男女と化し、濃密な愛撫を展開したのである。
 
「ア〜、ユウター、モウガマンデキナイ・・・、イレテ・・・」
裕香の低い声で喘ぎながら悠太を求めた。
悠太は裕香の水着を完全に剥ぎ取ると、指先で裕香のクリトリスをなぞった。
「アアア・・・、ア〜、ソノママイッチャイソウ・・・」
秘部の十分なぬるみを確認した悠太は、一気にフィニッシュへの体勢を整えた。
そしてゆったりと、かつ機械的に悠太は裕香と結合した。
裕香の言葉を借りれば、”ユウ・ユウ”のドッキングだった。
結合した後も機械的なピストン運動を展開。
「ア〜ア〜・・・、ダメヨ〜、モウ・・・イッチャウ、イッチャウ」
二人の快感が高まり、悠太が射精するまであとわずかという時だった。
 
二人はその両手で互いの首をつかんだ。そしてそのままぐいぐいと締め上げた。
「ウッ。苦しいよ」
「く、苦しい・・・。やめて!」
そこで二人は正気に戻った。
だが、互いに首を締め合った両手の力はそのままだった。彼らの意識は戻っても、相手の首を締める両手は制御できない状態だった。
「ウ〜、だ、だめだ。このままじゃ、どっちかが死ぬまで・・・」
悠太が絞り出すように声を発した。
「し・・・、死にたくない・・・」
裕香もかなり苦悶の表情だった。
「ど、どうしたら・・・?」
「・・・」
裕香はもう声も出せなくなっている様子で、それを見て悠太は思った。
『上になっている俺の方が有利に働く。このままじゃ、裕香が・・・』
必死に手を引こうとしても、両腕から先の感覚がなかった。
「うう・・・、ゆ、裕香・・・」
「も・・・もう・・・」
うめくように言葉を口にする二人だった。
悠太は必死に心の中で叫んだ。
『やめてくれ! 俺達を殺したところで何の意味があるっていうんだ!!』
 
その直後、スッと両腕に血が通うような感触がしたかと思うと、息苦しさから解放された。
互いの首を締め合う力が消え失せたからである。
「た、助かった・・・」
「よかった・・・」
直後、結合したままという互いの身の状況を確認し、悠太はさっと身を引いた。
裕香は直ぐ脇に脱ぎ捨てられた水着を拾い上げ、抱かかえるように体を覆った。
 
悠太は気まずそうに視線をそらして言った。
「俺達、Hさせられて首締め合ったんだね・・・」
「写真撮ってもらっていたら急にめまいして・・・、そこまでしか覚えていない」
「ごめん・・・。意識を失ったとはいえ裕香ちゃんに・・・」
「気にしないで・・・。仕方ないよ」
「あ、俺、あっち向いてるから服着なよ」
悠太はそう言って後ずさりした。すると、裕香のスポーツバッグに危うく踏みそうになり、バランスを崩した。
転倒は免れたが、ファスナーが開いたままだったスポーツバッグが、その影響で中身が見える程になった。
「スミングキャップが二つ・・・?」
突如、裕香の顔が引きつった。
「まさか・・・! こ、怖い・・・、こっちに来て!」
悠太は裕香をしっかりと抱き締めた。すると裕香は震えながら言った。
「自分のキャップは一つしか・・・。もう一つは霊が宿るキャップなのよ。昨日ちゃんと埋めたし、水着を着る時にはなかったのに・・・」
二人は抱き締め合いながら途方に暮れたが、勇気を出して再び学校の花壇に埋めることにした。
 
そして次の日曜日。
部活を終えた裕香と政美が、悠太のアパートに立ち寄り、既に訪れていた亮司と合流した。
霊のしわざと思われる危ない体験を話し合い、どうしたらいいかを考えるためだった。
だが、そこでちょっとした騒動になった。
 
「てめぇー! 俺の仲間の妹に手を出しただと! ただじゃすまねぇぞ!!」
怒り出したのは亮司だった。
悠太と裕香が霊の作用によってセックスしながら首を締め合ったことを、正直に話した途端の出来事だった。
「リョウちゃん、しょうがないじゃん!」
悠太につかみかかる亮司に、政美が割って入った。
「裕香ー! お前もお前だ! よりによって悠太と」
すると裕香が怒った。
「そりゃ酷いよ! あんたなんかより、ずーと悠太さんの方が優しいもん!」
「何だと!」
亮司が今度は裕香をにらみ付けた。裕香も負けじと言い返した。
「キャップ埋めた後、自分の意思でもう一度Hしたのよ! 好きなんだもん!」
「てめぇら・・・」
再び政美が割って入った。
「もう、いい加減にして!」
 
少しの間、その場に無言の状態が訪れた。
その後、亮司は政美にこんなことを言い出した。
「そう言えばお前・・・。お前以外は、Hな展開になって危ない目に遭ってるのに、お前だけフツーに危ない目じゃねぇか」
「フツーに危ない目!? 何よ、訳わかんないよぉ!」
「自殺した女と同じ水泳部だし、もっと何か知ってるんじゃねぇのか?」
「知ってることはもう話した!」
「俺達が二度目に盗撮した時、お前が発見したってことだが、本当は最初の時に・・・。いや、俺達より前から盗撮する奴にムカついて、女の霊を呼び出して懲らしめようとしたんじゃねぇのか? それであのスイミングキャップ、掘り起こしたとか・・・」
「ムチャクチャ言わないで!!」
「政美、ずっと水泳やってたよな。進学する時だって、水泳部がどんな雰囲気か気になるだろ。今の学校選んだ理由は何だ!? 本当は自殺した女と知り合いで、自殺の原因を知りたいとか、そんな気持ちじゃ?」
すると裕香が割って入った。
「政美を疑わないで。本当は政美、もっと水泳の強い所を志望してたの。でも、お互い一緒の高校に行きたかったし、あたしには、政美の第一志望に合わせるの無理だったから」

−−−−−−−−−−
 
6 標的
 
亮司にとって暴走族時代の親しい仲間の妹である裕香が、悠太と関係を持ったことは不愉快だった。霊的作用ばかりか、それぞれの意思でもセックスしたということで一層と。
だが冷静さを戻し二人の仲を認めた。
「裕香に悠太、マジに好きだったら仕方ねぇな。兄貴には俺からうまく言ってやるよ」
 
そしてまた次の日曜日。
亮司と悠太は盗撮行為を行った集合住宅の屋上にいた。
見下ろす先には、水泳部員達の練習風景。
盗撮目的ではなく、政美に対する疑惑が拭い去れなかったからである。
「幽霊話と言えばよ、ひたすら怖いとか奇怪な体験を言うだろ・・・。Hな幻覚見せられたり、催眠術に掛かったように実際にHさせられるのって、妙じゃないか? 自殺した女が色情娘ならまだしも、水泳一筋のカタブツだって話だし」
それが亮司の主張で、具体的な現象に対しても次のような仮説を持っていた。
「政美には霊能力があるんだ、きっと。盗撮は俺が主犯だから政美は俺を懲らしめたいと思ってた。お前と裕香の一件は、お前と裕香の仲を嫉妬してのことだ。そこで霊の力を借りて」
それに対して悠太は反論した。
「政美ちゃんにそんな力があったとしても、リョウさんの一件は部活中だし、裕香ちゃんと僕の件では、政美ちゃん、学校を休んでいたんスよ」
 
やがて夕暮れ時になり練習も終った。
顧問の教師と部員達が一礼をして解散となった。
すると顧問の教師が政美を呼び止めた。
彼は盗撮の一件で亮司と悠太を捕まえたうちの一人で、体つきのいい方だった。
見るからに水泳が専門の体育教師という感じだった。
彼は、政美にいろいろとジェスチャーを交えて話をした。
 
「政美に個別指導か・・・」
亮司が言った。
「練習に今ひとつ集中できなかったみたいッスね。かなり実力ありそうなのに、リョウさんに疑われたりしたから」
 
その後、政美は只一人で泳ぎ始め、コースを数往復した。
顧問教師はじっとその模様をじっくりとチェックしていた。
ある程度の時間が経過した所で顧問教師が合図すると、政美はプールから上がった。
政美の鍛えられたボディラインと艶やかなふくらみが競泳水着によって描き出されていた。
すると顧問教師は、ふいに政美を軽く抱き寄せた。
彼はスイミングキャップを外して政美に手渡し、濡れた後ろ髪をゆったりとなでた。
さらに耳元で何かをつぶやくと、政美の両肩をポンと両手で叩いた。そこまでなら教え子へのスキンシップに見えなくもない。
だが、その直後、顧問教師は政美のヒップラインを撫で回した。
次にじっくりと抱き締めると、何やら耳打ちした。自身が身に着けているTシャツと短パンが濡れるのも気にしない様子で。
政美は無抵抗で呆然としていた。
 
それを見て亮司と悠太は話した。
「政美にナンパしてるんじゃねぇの? ”俺の言う通りにすれば、いい大学に推薦してやる。お前を抱かせろ”、・・・なんてね」
「うーん、そんな感じがしないでもないっスね」
「おい、校門のとこで政美を待って、何言われたか聞いてみようぜ」
 
少しして顧問教師は政美から離れ、先にプールを後にした。
政美はゆっくりとタオルを手にすると、それを肩に掛け、プールサイドに座り込んだ。
そのまま少しの間じっとして考え事をした後、立ち上がり、プールサイドへの扉を施錠してプール脇の女子更衣室へ向かった。
もはや誰もいない様子で、他の部員達は帰ったか、校舎の方に行ったのだろう。
『一人か・・・。やだな・・・』
そんな思いを抱きながら、更衣室の扉を開けた。
 
更衣室に一歩踏み入れた瞬間だった。
ふいに何かに政美は脇から首筋を掴まれた。
「や、いや・・・!」
あっという間に口を塞がれた。
霊のしわざとかではない。明らかに生身の人間の手応えだった。
「じっとしていろ! 騒ぐな!」
入口の扉が閉められ、鍵が掛けられた。
政美の口を塞いだのは大きな手だったが、脅えて無抵抗の政美は、改めてガムテープで口を塞がれた。
「テープは剥がさないでくれ。手荒なマネはしたくない・・・」
相手は顧問の教師だった。
 
「ウー、ムゥー・・・」
政美は塞がれた口で声を発しようとした。
それをあざ笑うように顧問教師はニヤリとした。
「お前が好きなんだ。さっきも言っただろう。俺と一回だけでいいから・・・。そうすればお前は水泳の名門大学に進学、努力次第でオリンピック代表にもなれる」
「ウ、ウウ・・・」
「けっこう美人だから、オリンピック代表になれなくたって、タレントとしてスカウトされるかもな。それを思えば、一回Hする位いいじゃないか・・・。頼む、わかったら水着を脱いでくれ。それもゆっくりと色っぽく」
政美はどうしたらいいかわからず、涙ぐんだ。
「聞えないか? 水着を脱ぐんだ! でないと無理やり脱がすことになる。できればそんなことはしたくないんだ!」
今にも迫ってきそうな顧問教師に、政美は震えながら水着のショルダーを外した。
「よし、いいコだ。そのまま、ゆったくり脱いで裸になるんだ」
政美は言われた通り従うしかなかった。涙が止まらない。
 
「よーし。そうしたら両手を後ろに組んでじっとしてるんだ。嫌ならテープで両手を縛るまでだ」
直立したまま、政美は両手を後ろでに組んだ。
すると顧問教師は、政美の口元に自身の唇を押し当てた。そのまま舌先を政美の口に押し込もうとした。
泣きながら政美も舌を絡ませて、いやいやながら顧問教師のやることに応えた。
 
政美は屈辱にまみれて嗚咽を漏らした泣き方にエスカレート。
顧問教師はかえってそれが楽しいようで、次第に本性を剥き出しにした感じだった。
中腰になって今度は政美の両乳首を交互に舐め始めた。
「こんなにそそられる思いをしたのは三年振りだな・・・。それだけお前はいい女だ」
チュー、チューと音を立てて、両乳首に吸い付いてはニヤニヤと笑いながら味わった。
政美の心は嫌悪感で一杯だったが、吸い付かれる刺激のために突起してしまう乳首が悲しくなった。
女の体の扱いを十分に心得ている大人の男だから、その快感が堪らないのも事実だった。
それだけに一層悲しく、かつ感じてしまう政美。
『誰か助けて・・・。裕香、あたしがここにいるの気付いてよ・・・』
政美は切に願った。
 
すると女子更衣室の外側で、ある人影が近付いていた。
それは女子更衣室の前に立ち止まり、手かざしをするような仕草をした。
 
次の瞬間。
「ウァー!!」
女子更衣室から男の叫び声が響いた。
中から、慌てて水泳部の顧問教師が飛び出した。
「うそだぁー! そんなバカな! とっくにお前は成仏してるはずだろー!!」
そんな言葉を発しながら、校舎の方へ必死に走り出した。
政美は更衣室の中で涙しながら、じっと立っていた。
「つかめた・・・。先輩、自殺の原因は明かしてくれなかったけど、あの先生、本性を表したね・・・。先輩も同じように言い寄られて気を許し、一度だけの関係がズルズルと・・・。そして拒めば暴力的に関係を迫られた。そうなんでしょ? それで悩んだ末に・・・」
政美が自殺した女の霊に話し掛けるようにつぶやいた。
すると、半開きの扉から外にいた人影が侵入し、政美と重なり合った。

−−−−−−−−−−
 
7 泳ぐ音、再び
 
一方、校門の外で待機していた亮司と悠太。
「おい、なんか叫び声しなかったか?」
「そうっスね。確かにそんな感じが・・・」
様子を伺っていると、校内奥のプールの方から裕香が政美を伴って歩いて来た。
政美はうつむいていて、裕香の肩にもたれながら歩いていた。
「どうかしたか!?」
亮司が声を掛けると、裕香が応えた。
「もー最低! 政美、先生に大学推薦をエサに言い寄られ、断ったらレイプされそうになったのよ」
すると亮司と悠太は怒りの表情を浮かべ、亮司は強い口調で言った。
「なにィー!! そのセンコウはどこだ!? ぶん殴って他の奴らの前で白状させてやる!」
裕香は平然とした顔で応えた。
「逃げ回って、どこかで叫んでるよ」
 
「わぁー、やめろー! く、来るんじゃねぇー!!」
男の必死の叫び声が校舎内から響いた。
すると政美が顔を上げてポツリと言った。
「三年前自殺した先輩の原因はあいつ・・・。同じ手口で関係を持って先輩を精神的に追い込んだ。本当はね、リョウちゃんの言う通り自殺した先輩とあたしは知り合いだった。先輩が亡くなる前、ある人を介して知り合い、”うちの学校に来て水泳部を強くして”って誘われたの。まるで水泳部のレベルアップをあたしに託すように・・・」
「ええ!? やっぱりお前!?」
亮司が大きな声で言った。
「だから先輩の自殺の原因が知りたかった・・・。あたしね、多少霊能力があるのよ。入学当初、先輩と交信して、自分の意志で死を選んだことに間違いないとわかった。でも、原因はわからなかった。ただこの世への後悔を感じ取った。だから今、先生は復讐されてる。心を操られて自ら死ぬのよ」
 
すると突然、悠太が屋上を指差して言った。
「あ、あれ!」
校舎の屋上に目をやると人影があった。例の水泳部の顧問教師だった。
彼は何かから逃れるように、安全のための鉄柵をよじ登ろうとした。
他には誰の姿も見えなかった。
亮司は叫んだ。
「俺の時と同じような幻覚だ! 自殺した女の霊に追われているんだ!!」
教師には霊が見えるのか、完全に柵を乗り越え、落下すれすれの狭いスペースで身をかがめた。
 
『あのままじゃ、先生は転落して死ぬ!』
偶然居合わせた生徒達も屋上の異常事態に気付き、視線が釘付けになった。
やがて誰かが他の職員を呼んで来て騒然となった。
「おい誰か、体育館の倉庫から高跳び用のクッションだ!」
屋上の教師は身をかがめたまま震えていた。
 
このまま小康状態になると見届けて、悠太は政美に問い掛けた。
「政美ちゃん、君の話聞いて疑問があるんだ・・・。自殺したコの霊が自ら復讐したいと思うならとっくにやってるはずだよね? 代わりに復讐したいと君が思って、霊に働き掛けているんだろ!? それはいけないよ! 手段はどうあれ殺人はだめだ!」
「・・・」
「復讐の代理なんてやめようよ」
「あ、あたしには・・・。今の状況を作り出す力なんか・・・」
 
そんな最中、悠太は裕香がいなくなっていることに気付いた。
「あれ!? 裕香ちゃんがいない!」
「トイレじゃねぇか?」
亮司はそう言ったが、悠太は意に介さずにつぶやいた。
「もしかして、裕香ちゃんが・・・この状況を?」
すると、政美はある事実の説明を始めた。
 
裕香が悠太のアパートに行った時に話した、父親の愛人の子の存在。
実はそれが三年前に自殺した女生徒だった。
 
裕香が中学二年の時、父親に愛人の子がいることを知り、会ってみたくなった。
そして父親の持ち物を物色して、愛人の住所を見つけ出して連絡を取った。
”腹違いの姉”も会うことを快く承諾してくれ、実際会ってみるとすっかり意気投合し、兄と違って何でも言える雰囲気にすっかり惹かれた。
姉が水泳をやっていたので、裕香は、同じ水泳に打ち込んでいる政美とも引き合わせ、親しい関係を築いたのである。
 
ところがその三ヵ月後、姉は自殺。
原因を知らなかった裕香と政美は、自殺の原因を突き止めようと考えた。
だが、入学して一年以上経っても、姉の自殺の原因が掴めなかった。
わかったのは姉の霊が出たという話とスイミングキャップの存在。
 
政美は語った。まず心霊写真とそれに関連する出来事について。
「あの心霊写真、あれは本当に偶然で確かに驚いた。でも、それがきっかけで事態が進展したの。あれから二日後、テニスコート近くの花壇に野良犬が入り込んで、偶然にもスイミングキャップを掘り返していたのよ。スイミングキャップを裕香に渡したら、裕香に変な力が備わった。血のつながりがそうさせたのか・・・、具体的には、心に念じた通り人を操る力。マインドコントロールっていうの?」
悠太がこれに反応した。
「片親だけの血のつながりでも、姉妹の強い絆ができていたと・・・」
 
次は、亮司を巻き込んだ現象について。
「裕香がスイミングキャップに向かって念じた結果よ。あれは裕香があたしより先に帰った日だった。校門の先でリョウちゃんがうろついているのが見えて、”またろくでもないことやりそうだから懲らしめてやろう”って考えた。備わった力のテストも兼ねてね」
そう言って、政美は裕香から聞いた事実を伝えた。
 
裕香は亮司に怖い思いをさせてやろうと念じ、後を追った。
直後、亮司は幻覚を見るように何かに気を取られていたので、そのまま追跡した。
すると、亮司には裕香の姿が亡霊に見えるらしく、脅えて逃げ回った。
走って距離を詰めた裕香は、行き止まりの一角に追い詰めると、Hな想像と死にそうな恐ろしさを味わってごらんと念じて、スイミングキャップを手渡した。
直後、亮司は気を失ったということである。
裕香は亮太に、スイミングキャップを埋めたと話したが、それは嘘だった。
 
そして政美自身の一件。
「あたしが何かの力でプールに突き落とされ、下級生とぶつかりそうになったのは、全くの嘘。翌日、発熱したのは単なる風邪によるもの」
 
悠太と裕香の一件はこうだった。
裕香は悠太のことを気に入り、悠太をモノにしたいと考えた。
そこで亡霊に追われている振りをして悠太を呼び出し、アパートに上がり込む。
亮司の一件で自信を付けた裕香は、水着写真の撮影を持ち掛けて悠太を刺激した上で、悠太に念じてセックスへ誘導した。
そして、あくまでも”悪霊のたたり”を演出するために、首の締め合いを実施した。
ただ、軽くやるだけのはずが、力加減がコントロールできず本当に死ぬ思いをしてしまった、ということである。
その後も、裕香はスイミングキャップを埋めたとしているが、これも嘘。悠太がそばにいたが、背を向けてあくまで埋める振りをしていたと告げた。
 
そして今日、政美に襲い掛かった顧問教師の一件で、裕香は姉の自殺の原因が彼であることを悟り、復讐の決行を開始した。
裕香は、姉のスイミングキャップで得た力を、その顧問教師に向けて放ったわけである。
 
一方、屋上ではついに顧問教師が異常行動を始めた。
突如、スイミングキャップを被ると、屋上から地上へ飛び込みをするような構えをした。
地上の人間は騒然とし、亮司と悠太が次々に叫んだ。
「やばい! 例のキャップだ! プールに飛び込む幻覚で操られてる!」
「裕香ちゃんを探してやめさせないと!」
「バカ! そんな暇はねぇ!」
 
だが、顧問教師は地上の人間達の動揺をよそに、地上へ向けて”飛び込み”を実施した。
「うあーーー!!」
落下した直後、正気に戻った彼は叫び声を上げた。
だが成す術なく、真下の樹木に引っ掛かりながら地上に転落した。
地上の一同は彼の元に駆け寄り、誰かが叫んだ。
「おい、救急車だ!」
「木がクッションになって、まだ息があるぞ!」
落下した顧問教師の頭から、いつの間にかスイミングキャップは消えていた。
 
やがて、亮司たちの元へ裕香が戻って来た。そして政美に向かって言った。
「姉さんが、先生の命まで奪う気はないって・・・。だから木に引っ掛けさせた。あたしの復讐の意思に力を貸してくれたけど、姉さんはただ泳ぐのが好きなだけなんだよ」
悠太は裕香をしっかり抱き締めた。
そして次の瞬間。
どこからともなくスイミングキャップが飛来し、悠太の目の前をかすめて高速移動でプールの方へ飛んで行った。
”バシャーン”
誰もいないはずのプールから、誰かが飛び込むような音が響いた。
 
−−−−−−−−−−
 
三年後の現在。
ラーメンチェーン店の店主となった亮司の元に、一通の封書が届いた。
「結婚披露宴の招待状? 悠太と裕香め、結婚するだと・・・? 早過ぎないか? ・・・そうか、悠太の奴、またマインドコントロールされたな・・・。裕香の能力はスイミングキャップに関係なく潜在能力だったりしてな」
 
(終り)

【作者より】
競泳水着+ホラー系の題材でしたが、ホラー系小説自体、まともに創作するのが初めてで、
ミステリー小説になってしまいました。
これで私の投稿小説はラスト(のつもり?)です。
当初の"ChinaCat"のハンドル名から通算して7タイトルとなりましたが、ありがとうございました。

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