「秘密クラブ・SLA」 著者: こちら亀有公園の反対側様 投稿日: [2006.03.18]
  
そこはまるで水族館を連想させた。 
人気の水族館では、水槽の側面と底面がガラス張りで、下の見学スペースから魚たちが泳ぐ様を眺められるように設計された箇所を売りにしている。 
まさにそんな水族館を思い起こさせるのだ。 
異なるのは、そこが魚の遊泳する水槽ではなく、人間が泳ぐプールであるという点だ。 
プールと言っても公式競技場でのそれよりミニサイズで、大人四人が並んで泳げる程度の幅と、長さは20メートル程度。 
プールへの出入口やプールサイドは上のフロアとなっており、ガラス張りの水槽部が階下の天井となっている構造なのである。 
 
(全く、金持ちの道楽心には……) 
”SLA”などという略号が名前となっている秘密クラブに潜入した谷川卓巳(タニガワ・タクミ)は呆れた感慨を抱いた。 
店内は一見キャバクラ風。 
それに水泳用プールがドッキングしたような光景は何とも言えぬ違和感を植え付ける。 
 
谷川卓巳はフリーライター。 
但し、”自称・フリーライター”という方が適切かもしれない。 
元々は大きな希望に胸に中堅出版社へ就職したものの、使い走りばかりの仕事と人間関係でのつまずきから退職し、フリーライターを目指して活動を転換。 
しかしろくに仕事もなく、丼物主体の某ファーストフードチェーンでアルバイトをして生活を支えているのが実情だった。 
ツテで依頼された仕事も、性風俗店への体験レポートやアイドル的風俗嬢への取材がせいぜいだった。 
 
そこへ、突如仕事の依頼が舞い込んだ。 
依頼主は、アイドル的風俗嬢への取材依頼を頻繁に寄せてきた某出版社の男である。 
依頼内容は風俗店には違いなかったが、一風変わった趣向の会員制秘密クラブである。 
それは事業で高収益を上げ、共通の嗜好を持つ数名のグループによって作られたらしい。 
営業日は週末の金曜と土曜のみで、会員になるには現会員からの紹介のみという規定になっているようだ。 
入会金は不明だが、現会員と同伴ならばゲストとして非会員でも入店が認められるという。 
谷川卓巳が入店できたのもその手段を使ってのことだ。 
 
卓巳を招き入れることに協力した人物は、吉岡正造(ヨシオカ・ショウゾウ)といい、有力会員ということである。 
事前に依頼主が彼との接触に成功し、店名や所在地はもちろん、ヒントになるような記述は一切しないという誓約のもとで取材協力を取り付けていた。 
 
ここの売りは、冒頭に述べたプールの存在である。 
水泳経験のあって容姿がすぐれた若い女を募り、ショータイムとして、女たちに競泳水着姿で泳がせる。 
しかも、競泳水着の型については、スパッツタイプは一切使わず、従来からのハイレグタイプのみというこだわりようだ。 
会員らは、その模様をじっくりながめながら酒を楽しむという趣向なのだ。 
その際、一着を当てる賭博行為も行われているとのこと。 
 
卓巳と吉岡正造は奥の方にテーブルに案内され、吉岡が仕切って酒と料理のオーダーをした。 
高級ウィスキーと水割りのセットがすぐさま運ばれたが、吉岡が卓巳に気を利かせて、 
「最初は生ビールがいいかな?」 
と問い掛け、生ビールを取り寄せた。 
 
生ビールを乾杯すると、卓巳は、協力者の吉岡に彼自身について尋ねてみた。 
吉岡正造は一代で財を築き上げた実業家で、今年五十歳になるという。 
学生時代は水泳部に所属していて、当時の恋愛対象だった女子生徒も水泳部。 
それを機に競泳水着フェチになったようだと、自身の嗜好を話した。 
やや照れ臭そうに笑って話す仕草は、どことなく子供っぽかった。 
だが、仕事中では部下にそれなりに厳しく接しているのだろうという感じである。 
それが店内では気前の良さそうなオヤジという雰囲気だ。 
 
次いで店内の様子を見渡した。 
頭上に展開するガラス張りプールに圧倒されがちだが、それ以外の店内の特徴をチェックすると、二十程度のテーブル席が設置され、入り口と相対する奥の壁際にはステージが設けられていた。 
また、店内の中央部の両サイド、そしてステージの両端二箇所の、計四箇所に大画面モニターが設置されていた。 
ステージはショータイム、モニターはプール表面の模様を映し出すためだろう。 
 
店内で働く女たちに目を向けると、いずれも若い美女ばかり。 
もしかしたら接客係の女は競泳水着か、或いはそれをアレンジしたようなコスチュームでいるのではと、入店前に想像したのだが、実際は違った。 
純白のブラウスに黒っぽいタイトミニスカート姿か、ゴシックロリータ調をアレンジしたミニスカートのメイド服に二分されていた。 
 
吉岡に、”SLA”などという名前の由来や、ここで行なわれていることの詳細を尋ねようとしたが、 
「今話を聞くより、まずはじっくり雰囲気を味わってみては? その方が新鮮味があるし、もうじきショータイムが始まるから」 
という吉岡の言葉で遮られた。 
ステージへ視線を向けると、上下とも黒いジャージ姿の長身の男がマイクを握り、スタンバイしていた。 
吉岡の言う通り、間もなく店内はショータイムを迎えるようだ。 
 
やがてショータイムの始まりを告げる音楽が鳴り響き、各テーブルから拍手が沸いた。 
(これからどんなショーが展開されるんだろう?) 
卓巳は胸の高鳴りを覚えた。 
司会進行役の男は声を上げた。 
「お楽しみのショータイム! 今夜もじっくり美女たちの泳ぎを堪能しましょう! ……まずはミナちゃん! どうぞこちらへ! 皆さん、拍手をお願いしま〜す!」 
その一声に応じて、店内で働いていた美人ウェイトレスがステージへ上がる。 
彼女は、先程、卓巳らのテーブルへ生ビールを運んだ人物で、メイド服ながらスタイルの良さが見て取れた。 
 
ステージ上では、十数着分の競泳水着と数種のスイミングキャップが並べられたキャスター付ワゴンが、”ミナちゃん”の背後に置かれていた。 
司会者はそれをステージ前に引き寄せると、客席に向かって言った。 
「では、恒例のお着替えタイムで〜す! ミナちゃんがこの場で待望の競泳水着に着替えます!」 
その一声で、ステージ上から薄く白いカーテンが降りてきた。 
どうやら、彼女が競泳水着に着替えるシルエットを楽しませる趣向らしい。 
司会者がステージを一旦降り、周囲のライトが最小限の光度まで落とされると、客席からは拍手が鳴り響いた。 
 
客席側から見て、白いカーテンの向こう側に位置する”ミナちゃん”の頭上でスポットライトが浴びせられた。 
白いカーテンは、影を描き出す役割というよりシースルーに近い感じだった。 
まずは、ヘアバンド、エプロン、ストッキングといったメイド服の付属アイテムが順に外された。 
次いでメイド服の背中のホックを外すシルエットが展開され、上半身、下半身と続けてメイド服が”ミナちゃん”の体から離れていく。 
 
完全に脱いだメイド服も、軽く丸めるようにしてワゴンに上へ。 
”ミナちゃん”の体は下着だけの状態であろう。 
彼女はブラジャーを外すために背中のホックに向けて両手を回す。 
その瞬間、客席からは再び拍手が沸きあがった。 
彼女は客席の男たちを刺激するツボを心得ているのか、挑発的にゆったりとブラジャーを外した。 
しかも、外したブラジャーを片手でかざす仕草をすると、さらにカーテンに体を押し付ける行為をやってのけた。 
カーテンの、彼女の胸が位置する箇所では、乳首のポッチが描き出されたである。 
これによって、客席からそれまで以上の拍手喝采を呼び起こす。 
 
彼女はブラジャーもワゴンの上に置くと、次にショーツに手を掛ける。 
これも挑発的にヒップを揺らしながらだ。 
脱いだショーツも、ブラジャーの時と同様、片手でかざしてポーズを取った。 
再びカーテンに体を押し付ける行為をすると、アンダーヘアが透けて見えるのではないかという期待感が充満する。 
 
卓巳は、どこまで挑発的に行動するのかと思いながらも、続いてどんな仕草で水着を身に着けるのか胸の高鳴りを覚えた。 
彼女はいくつかの水着を手に取った後、一番のお気に入りを選ぶと、横向きで水着の装着を始めた。 
ゆったりと右足を通し、続いて左足。 
水着のボトム部を股間にフィットさせる行為が展開され、恥骨とヒップラインへの食い込みを調整する仕草が絶妙のセクシーさだった。 
客席からは、”おぉぉ……”とため息とも喘ぎとも区別付かない声が漏れる。 
水着のトップ部分でバストラインを覆い、仕上げのショルダーストライプを身に着けると、彼女は腰をスイングして軽くセクシーダンスを披露した。 
 
やがてライトは元の光度に戻り、カーテンが上昇。 
司会者は再びステージ上に立つと、彼女に声を掛けた。 
「実に見事な着替えぶりでしたね。すばらしいッスよ! ……では、キャップを持ってプールでスタンバイして下さい」 
続けて客席に向けて一声。 
「皆様、熱いご声援と拍手で送り出してあげて下さい!」 
それに呼応して、”ミナちゃ〜ん、がんばってー!”とか、”ミナちゃ〜ん、もうサイコー!!”などという声援と拍手が巻き起こった。 
彼女は満面の笑みを浮かべて声援に応えた。 
 
どうやら、頭上に展開するガラス張りのプールは、入り口がステージの左隅にあるらしく、競泳水着姿の彼女は笑みを浮かべたまま、その方向に向かって歩き出した。 
直後に女性スタッフがステージ上に上がり、脱いだメイド服と下着を袋に回収した。 
「では、次に登場するのは……」 
司会者のアナウンスが続いた。 
 
一人づつ女たちを競泳水着に着替えさせ、人数が揃った所でガラス張りのプールで競泳をさせる。 
もちろんその前に誰が一着かの賭金を募る。 
そんな展開でショーが展開するのだと卓巳は理解した。 
ここにいる連中がどれだけの賭金を出すのか非常に興味深かった。 
だが卓巳には、”ミナちゃん”の笑顔とスタイルが強く脳裏に焼きついてしまった。 
 
(ミナちゃんか……。かなりいい女だな……。でもトップに登場するコより、より後の方が人気は高いはずだ。一体どんな女たちが登場し、ここの連中を興奮させるんだろう?) 
卓巳の興味は尽きなかった。 
 
ー 2 ー 
 
谷川卓巳がミナに引き続き、どんな女たちが登場するのか状況を静観すると、三人の女たちが続々と紹介され、生着替えが展開された。 
ミナの場合と異なるのは、いずれもステージ横からの登場で、それまで店内で働いていたわけではなく、私服姿だという点だ。 
その辺りの事情を吉岡に聞くと、ミナはレギュラーで、他は単発で参加する契約スイマーとのことだった。 
さらに突っ込んで情報を求めると、契約スイマーはネットの掲示板で募集したり、女性タレント派遣事務所に水泳経験者を要請したりして、集めているとのこと。 
 
(ミナちゃん以外の三人は、生着替えがぎこちないよな……) 
 
そんな思いの卓巳に構わず、ショーは進行する。 
頭上のガラス張りプールでは、競泳水着の女たちのウォーミングアップが開始された。 
各自、スイミングキャップとゴーグルを付けて、競泳ムードが高まる。 
しかし、異なるタイミングとフォームで泳ぐ四人の女を見ると、やはり水族館の水槽を泳ぐイルカなどと何ら変わらない気がしてしまう。 
 
(競泳水着フェチにはこれがたまらないのだろう……。あいにく俺は違うが……) 
 
卓巳には競泳水着姿の女へのフェチ嗜好はなかった。 
これまでの風俗店体験取材を通じて、女とは全裸での濃厚な接触が何よりと感じていたからだ。 
ずっと見上げている首が疲れるので適度にモニーターの方に視線を切り替え、女たちの泳ぎを静観していると、吉岡が話し掛けた。 
「これはこれで、いいながめじゃないかね? それとも裸の女の方が……?」 
「いえ……。じっと見ているとけっこう萌えますね」 
「わしらはな、女たちの筋肉の付き具合やフォームのバランスをチェックして、誰がトップになるか予想するんだよ」 
「はあ、なるほど」 
卓巳は適度にあいづちを打つ。 
 
それから吉岡はこれから展開する四人の競泳ルールについて説明をしてくれた。 
ここの設立者の独断で作られたルールだと補足の上で。 
それによると、スイマーたちに課された競泳の内容は、背泳ぎ・平泳ぎ・クロールの泳法を順番に連続して泳ぐという、公式とは異なる個人メドレー。 
全長20メートルという変則サイズのため、一つの泳法に付き一往復で40メートル、合計120メートルを泳ぐのだという。 
 
吉岡はさらに、携帯電話を取り出し、拓巳に賭けへのエントリ方法を示した。 
インターネット接続機能で専用のサイトにアクセスし、会員番号とパスワードをキーインすると、賭けに必要な情報のエントリに移行した。 
賭けには、単純に一着を当てる単勝式、一着と二着を順番通りに当てる連勝単式、さらに一着から三着までの順番を当てる三連勝単式の三種があるそうだ。 
賭金は銀行口座から自動引き落とし、当たった場合の配当金も自動振込みという具合に、システム化されているのだと吉岡は付け加えた。 
 
「締め切りまであと五分。さあ谷川さん。最初のレースはあんたの気に入ったコに単勝で賭けるとしよう。あんた、誰がいいかね?」 
吉岡はそう言って卓巳の顔をじっと見つめた。 
「は、はあ。そうっスね……。僕は最初に登場したコが……」 
「よっしゃ! レギュラーのミナだね? まずは今日の運の小手調べに……」 
吉岡は携帯電話の操作を見せながら、ミナに単賞で賭金五万円と入力手続きした。 
(小手調べで五万? ここの賭金、多い奴はいくら注ぎ込むんだろう?) 
単賞の場合、当たる確率は四分の一で、一般のギャンブルより遥かに高確率である。 
とは言っても、平然と五万円を賭ける振る舞いに、経済的に苦労している卓巳は驚きと羨ましさを感じた。 
 
かくして、四人のスイマーによる競泳が開始された。 
まず四人は、僅差で競い合うように背泳ぎを展開した。 
店内では各自が賭けの対象にしたスイマーへの声援が飛ぶ。 
頭上のガラス張りプールを見つめると、皆、水泳経験者だけあって、引き締まったボディをしている。 
泳ぐ様を凝視すると、ヒップへの容赦ない水着の食い込み具合に、視線が釘着けになる。 
 
競泳水着フェチ嗜好ではないと自認する卓巳であるが、水着からはみ出しかかったヒップに、男としての欲求が高まる。 
そんなヒップが四つ並んで頭上を移動しているのだから、ついついどれが一番好みの形状か選別してしまう。 
卓巳にとって最も惹かれたヒップは、一番右端を泳いでいるミナだった。 
ヒップに限らず、全体的な体の成熟度やバランスを評価しても、彼女が一番のような感じがした。 
 
背泳ぎの往復を終わり、引き続き平泳ぎ。 
今度は視線がバストラインや股間の食い込みへと集中する。 
競泳水着独特の胸元の締め付けで浮き出た乳首のポッチに目を奪われる。 
或いは水を蹴る瞬間、水着の股間部からヘアがはみ出るのではないかという期待感がみなぎる。 
そして、バストサイズや乳輪の大きさ、アンダーヘアの濃さ、性感帯までも想像するに至る。 
この段階の順位は、第三コースのスイマーが半身リードし、注目のミナは第二位だった。 
スイマーたちは客席からのエロティックな視線を受け止めながらも、真面目に泳いでいるようだった。 
 
(そう言えば、彼女らが得る賞金についてまだ聞いてなかった……。それなりにいい金だからマジに泳ぐんだろう……) 
 
卓巳の思考をよそに、競泳は最後の泳法となるクロールに展開した。 
この段階でも順位は第三コースのスイマーがトップで、続いて半身遅れでミナ、残りの二人はさらに体一つ分遅れていた。 
しかし……。 
ミナはクロールが一番得意なのか、一気にスパートを仕掛けた。 
ミナとトップとの差はグングン縮まり、最終ターンの直後には一気にミナがトップに躍り出た。 
 
「ミナちゃん〜! イケ、イケ〜〜!!」 
「いいぞ、ミナちゃん! その調子だぁ!!」 
 
ミナに賭けた客たちの声援が乱れ飛んだ。 
そして、そのままミナは一着でゴールした。 
声援とため息が店内に響き渡る。 
 
「やったな! 今日はいいスタートだ」 
吉岡が笑顔で言った。 
卓巳も笑顔を返すと、吉岡はウィスキーの入ったグラスで乾杯を求めてきた。 
卓巳にとって店内第一回目の競泳だったが、これでここの雰囲気がつかめたような感じだった。 
一定の時間間隔でこのような競泳ショータイムが展開するのだと、吉岡は説明した。 
 
プールサイドでは勝利者インタビューが行なわれた。 
プールサイドの模様は見上げてもよく目えないので、大型モニターを見ることになる。 
そこでは例の司会進行役の男がミナにマイクで質問する。 
「この一ヵ月くらいは余裕で一着という状況が続いたよね。まさに当店のトップアスリートだったわけだけど、今日のレースはどうだった?」 
「ええ。三コース目の人、スタートから『わっ、速ーい』って感じだったしぃ〜。ミナも負けないように全開で追い掛けちゃいましたぁ〜」 
どことなく舌足らずで、甘えたような話し振りのミナ。 
「でもラストは得意のクロールで見事逆転でしたね」 
「ラッキーでした! ホントにもう必死でしたぁ!」 
「では次回も連勝記録の更新を期待してます。お客様に一言どうぞ」 
「は〜い、次もがんばりますから来てください!」 
 
ミナはその直後、カメラに向かって水着のショルダー部を外すと、水着をめくり、形のいい乳房をあらわにした。 
まさに客へのサービスだった。 
みずみずしくピンク色の乳首は卓巳の心をはじめ、客席の男たちの本能を大いに刺激した。 
 
モニターを通してミナを見ていると、卓巳はかつて体験取材した東京・渋谷の人気ナンバーワン・フードルを思い出した。 
男の心に深く響いて性欲をそそるような甘いしゃべり方と声で、サービス心も旺盛だった。 
ミナとその風俗嬢のイメージとが重なり、体のうずきを覚え、高級酒の酔いも手伝って、ミナとセックスしたい欲求に駆られてしまった。 
 
(取材どころじゃねぇよ……。何か、ムショウにあのコとやりたい気分。少々荒っぽく水着を剥ぎ取り、おっぱいをわしづかみにして……。バックからズブッとぶち込めば犯す気分全開……) 
卓巳は本能の目覚めを自覚した。 
 
しばらくして再びメイド服になって店内に戻ったミナを、卓巳はしっかり見届けた。 
その頃、店内では二回目の”生着替え”が始まっていた。 
最初とは違う顔ぶれによるショータイムだ。 
しかし卓巳には、もはやどうでもよかった。 
吉岡とは適当に話を合わせる感じに終始した。 
潜入取材を飛び越えて、ミナへの欲望しか頭にない状態に陥ったのだ。 
卓巳はついミナの動きを目で追い、声を掛けるチャンスを伺う。 
彼女の勤務終了後に取材名目で会う約束を取り付け、後はうまい言葉で口説き落とすという作戦だ。 
 
その矢先。 
吉岡が、店長に話があるからと、席を外した後だった。 
タイミングを計って、ミナに声を掛けるために席を立とうとした瞬間。 
「失礼します」 
突然、背後から声を掛けられた。 
振り返るとそれは、カウンター越しでバーテンダーをしていた女だ。 
純白のブラウスに黒いベスト、同じく黒のタイトミニスカート姿の美女である。 
こちらもミナに負けないプロポーションの持ち主で、オレンジ色の液体が入った二つのカクテルグラスをトレイに載せて携えている。 
 
ハッとする卓巳に、彼女は言った。 
「初めまして、シホっと申します。吉岡さんからの依頼で参りました。スペシャルカクテルを用意して、あなたをVIPルームへお連れすることになりました」 
「VIPルーム?」 
”VIPルーム”という言葉の響きに静かな興奮を覚える卓巳。 
「あなたへの特別接待を申し受けまして」 
「俺ひとりだけ?」 
「はい」 
卓巳は思った。 
(そうか……。吉岡のオッサン、俺にそこまでの体験取材をさせてくれるって? しかもVIPルーム……。どんなサービスがあるのか判らんが、気前が良過ぎて恐い感じもする……) 
 
そうして案内されたVIPルーム。 
豪華な応接間で、ベッド代わりになりそうなソファとテーブルがあり、そして例のプールの模様を映し出す大型モニターがここにも設置されていた。 
 
シホと名乗る女は、卓巳に「どうぞお座り下さい」と招くと、二つのスペシャルカクテルをテーブルに置き、トレイを隅に立て掛けた。 
続いてシホは卓巳の隣に座り、甘くささやいた。 
「ね、乾杯しましょう」 
促さるままカクテルグラスを持ち、卓巳はシホと乾杯した。 
揃ってカクテルをひとくち飲みグラスを置いた直後だった。 
 
シホは突如卓巳の唇に、自身の唇を重ねてきた。 
”重ねた”と言えるのはほんの少しで、あとは、むさぼり付くように吸い付くと表現するのが妥当だろう。 
引き続いて舌先を絡ませてのディープキス。 
それをしながら彼女の指先は、自らミニスカートのすそをまくり上げた。 
ミニスカートの下には、男性用ビキニタイプの競泳パンツをはいていた。 
シホは甘く艶やかにささやいた。 
 
「男ものの競泳パンツフェチなの……あたし。あなたの分も用意してあるからね」 
 
− 3 − 
 
競泳水着フェチの、今流で言えばセレブの秘密クラブだから、VIPルームはパートナー役の女性とたっぷりエンジョイする場である。 
ここはシャワールームにミニチュアプール、ジャグジーがあり、高級酒の酔いで親交を深めた後は、客もパートナー役の女性も一緒に競泳水着姿になって楽しむ空間だった。 
但し女性との本番行為だけは禁止で、それ以外のことは交渉次第。 
シホ自身については、レギュラースイマーの一員だが、リーダー役を任されているとのこと。 
 
シホはそれらを説明した後、卓巳に問い掛けた。 
「吉岡さんとはどういうお知り合い?」 
「う、うん……ネットの掲示板で知り合った」 
「やっぱり競泳水着フェチの交流場?」 
「まあね……。それでこんな場所があるよって話が展開して、今日ゲストで。……ところでさ、ここの名前の由来は?」 
「SLAですか? 想像付くでしょ? ″Swimming Ladies Association″の略」 
「やはりそんなとこか……。で、あの吉岡さんはどれ位の有力会員なの?」 
「”有力会員”? ていうか、ここの実質的な運営責任者よ」 
「え? そうなんだ……。ところで、ここの競泳で連続勝利してるってミナってコは……」 
「ミナ? あのコはただ水泳がうまいだけ。ヘラヘラする以外、こういう接客はできない。気になる?」 
「あ、ちょっとね」 
 
シホは急に不機嫌そうになったが、ともかくVIPルームの奥を案内した。 
卓巳とシホはそれぞれメンズ、レディースの競泳水着に着替え、シャワールームへ移動。 
シホの水着は赤と黒のツートンカラーで、色合いに目を引かれる。 
シャワールームでは全方位型シャワーが装備され、客と一緒に高級天然素材のボディソープを使って体の汗を流し、スキンシップを図るのだという。 
シャワールームの奥には、ミニプールとジャグジーがあった。 
ミニプールは七〜八メートル四方の温水プールで、ジャグジーに目を向けると、そばにエアマットとローションが備えられており、客とパートナー女性との営みが展開されることは容易に判断できる。 
 
実際に卓巳はシホと一緒にシャワーを浴び、ミニプールでシホと子供のように戯れ、ジャグジーにも浸かってみた。 
手入れが十分に行き届き、室内温度から、ミニプールやジャグジーの水温設定に至るまで快適な状態が保たれていた。 
ジャグジーから出るとエアマットに寝そべってのボディコミュニケーションに展開。 
ローションにまみれて体をすり合わせた。 
シホは自ら水着のショルダーを外し、バストを露出させると、自身の乳首を卓巳のそれと重ねて絡ませた。 
さらに、卓巳の競泳パンツを膝頭までずらすと、股間の主を口に含んだ。 
 
゛チュッ! チュッ! チュ〜〜、チュッ!……゛ 
フェラの卑わいな音が響く。 
唇と舌先による直接の刺激に加え、シホの欲情してしゃぶり付く音が聴覚を通じて刺激する。 
さすがに股間の主は反応して勃起するが、卓巳の本心はミナを相手にしたいというものだった。 
それゆえ、シホ相手の行為は受け身の姿勢になっていた。 
 
それまでの風俗取材でも、気乗りしない相手の場合は上辺での対応になっていた。 
ソホに対してもそれに近いものがあり、シホはそれを察知したらしく、エアマット上での基本的サービスをひと通りすると、冷めた表情で卓巳に言った。 
「閉店後にガラス張りのプールを泳いでみない? VIP待遇を与えられた人は閉店しても遊べるのよ。終電なくなるけど、ミナも付き合わせるから」 
「え? ホント!?」 
ミナとの接触が約束されて、気分が上気する卓巳だった。 
 
かくして、SLAは閉店した。 
卓巳とシホは競泳水着姿のまま、例のガラス張りプールのプールサイドに立った。 
プールサイドは照明を半減して薄明かりの状態にしてあった。 
シホは卓巳に言った。 
「どうぞ泳いでみて。あたし、ミナを呼んで来るから」 
勧められるままガラス張りプールを泳いでみると、階下は完全に消灯済みで、暗く底のないプールを泳いでいるようだった。 
そんな空間を二往復泳いでみてプールから上がると、卓巳は異様な光景を目にした。 
 
シホはプラスチックケースを携え、隣にミナを伴っているのだが、ミナの姿は驚きだった。 
黒い男性用競泳パンツ一枚の姿で乳房をあらわにし、SMグッズのゴム製拘束具である全身枷を装着されていたのだ。 
全身枷とは、両手を後ろ手に拘束する上、首筋からバストの上下、腹部、そして股間までをベルトで締め付けて固定するものである。 
ミナの美乳が締め付けのため、いびつに肥大化したように見える。 
口には球形の口枷(ボールギャグ)を噛まされ、既に口元から唾液が溢れ出ていた。 
ミナは明らかに涙ぐんでいた。 
 
卓巳があぜんとしていると、シホはミナを卓巳の正面に連行し、悪女のように微笑んだ。  
 
「SLAの名前だけどね、あたし的には、″Slave Ladies Academy″なのよ」 
「奴隷女学院?」 
卓巳は顔をこわばらせて返答した。 
「今まで何人か生意気なコたちをこうして指導してきた。吉岡さんも黙認の上よ」 
「しかし……」 
「楽しいでしょ? このコ、ちゃんと居残り指導を了解したのよ」 
平然と言うシホ。 
その隣でミナは全身枷の締め付けと不自由さを嫌がる様子がありありだった。 
 
(無理やりだな……。もっと酷いことをするようならその時は……) 
卓巳は取りあえず静観することに決めた。 
シホはミナに対して何か良からぬ感情を抱いているようだった。 
それは敵対心とも思えた。 
 
シホは卓巳を手招きしながら、ミナを壁際まで連行した。 
ちょうどそこには、水着の着用具合などをチェックするための全身用ミラーが設置されており、その前にミナを立たせた。 
ミナは拘束された自身の哀れで、屈辱的な姿を直視できず、うなだれてしまった。 
 
シホはミナへ意地悪に問い掛ける。 
「ここのナンバーワンアイドル気取りのミナ。いっそ、アイドルタレント目指す?」 
「………」 
「フフフ……、ボールギャグを突っ込まれちゃ、しゃべれないよね?」 
「………」 
「よーくご覧なさい。口が開いたままになるから、よだれがダラダラでしょ?」 
ミナは赤面して、首を左右に振る。 
「ほらほら、他のコ以上に溢れてる。あんたって食い意地張ってるから」 
「うぅぅ……」 
 
シホはミナの髪を左手でつかんで無理やり顔を上げさせた。 
「よーく見なさい、みじめな自分の姿を。おっぱい丸出しで縛られた自分がかわいそうでしょ!? よだれがタラタラ垂れて屈辱的でしょ!? ベルトが食い込んでアソコが痛いでしょ!?」 
「うぅ……」 
「何をされても抵抗できない姿って楽しいでしょ……? もっといじめられたいよね!? そうでしょ!?」 
ミナはオドオドしながら首を横に何度か振った。 
シホはたたみ掛けるように言った。 
「うそ! このエッチなおっぱいは何? 先が固くなってるでしょ!! 気持ちいいんでしょ!?」 
シホはミナの口から溢れた唾液を右手指先に付着させると、ミナの乳首に塗り付け、摘んで引っ張った。 
「あぅ……」 
 
その後も、乳首を指先で弾かれたり、何度も摘まれたりして執拗に責められ、ミナは不自由な口から喘ぎ声を漏らし続けた。 
唾液はとめどなく滴り落ち、体はピクピクと震えが止まらない。 
さらにシホは中腰になって顔をミナの乳首に近付け、舌先で舐め回した。 
「あ……、はぁぁぁ……」 
ミナが喘ぎ声を漏らした直後。 
「あぅ〜!!」 
ミナはそれまでより大きく声を漏らし、苦悶の表情を浮かべた。 
シホがミナの右乳首にガブリと噛み付いたのだ。 
さらに左乳首もガブリと噛み、ミナはたまらず涙が頬を伝った。 
 
「痛がってるじゃないか。噛むのはよせよ」 
さすがに見かねて卓巳はシホに声を掛けた。 
「大丈夫よ」 
シホは平然と言ってのけ、ミナの背後からその股間に手を伸ばした。 
そして全身枷のベルトが食い込む競泳パンツの生地の内側に指先を入れてみた。 
その仕草を、ミラーを通して見るミナは羞恥心からか、ガタガタと震えた。 
シホの指先には、ねっとリとした愛液が充分に付着し、シホは得意気に卓巳へ見せた。  
 
愛液はそのままミナの乳首へなすり付けられた。 
 
シホはミナのボールギャグを外し、命令した。 
「こちらのお客様の大切なものに奉仕して差し上げなさい!」 
ミナは卓巳の正面に来るとひざまずいた。 
その一方でシホは卓巳に言った。 
「競パン脱いで生奉仕させて下さい」 
言われるまま卓巳が競泳パンツを脱ぎ捨てると、ミナは股間の主を舐め回し、口に含んだ。  
 
ミナのフェラはあまり上手ではなかった。 
だが、後ろ手に縛られて体を締め付けられた不自由な状態で、真面目に奉仕する姿は支配的快感を大いに刺激された。 
じわじわと勃起する卓巳の股間の主。 
しかし、シホはミナの髪をつかんで荒っぽく立ち上がらせ、奉仕を中断させた。 
 
「ヘタクソ! それじゃあお客様を満足させられない! お仕置きだね」 
シホはミナをプール際まで連行し、頬を右手で平手打ちした。 
卓巳が制止するのを振り切って、さらに二回、三回と続けた揚げ句、ミナをプールへ突き落とした。 
後ろ手に縛られたままではまずいと、卓巳は素早く飛び込み、ミナの体を支えた。 
「お客さん、後はこのコをたっぷり調教してあげて下さい。プラスチックケースの中に、ムチやろうそく、バイブなんかもありますから……。一晩中楽しんでOKです」 
あくまでも平然とシホは言い、その場を立ち去ってしまった。 
 
卓己はミナをプールサイドに横たわらせた。 
「大丈夫かい? まさかミナちゃんがこんなことされるとは……」 
「……ありがとう。大丈夫です」 
「シホはどうしてこんなことを」 
「あのひと、あたしのことをずいぶん嫌ってるんですぅ……」 
「俺はミナちゃんが一番気に入ってるんだ……。今拘束を解いてあげるからね」 
「い、いえ。このままで……。縛られた自分の姿見せられて、結構感じちゃいましたぁ……。よだれタレ流しの刑だけは嫌ですけどぉ……」 
「ミナちゃん……」 
「お願いです。縛られたままオモチャにされちゃうの、続けてほしいんですぅ……」 
「う、うん……」 
 
卓巳は思いを込め、ミナの乳首にすがってしゃぶり付いた。 
ミナはピクピクと体を震わせる。 
その反応を心地良く感じ、舌先で乳首を、愛情を込めて何度も愛撫した。 
そしてミナの股間に食い込んだベルトだけを外し、はかされていた男性用競泳パンツのボトム部の生地をずらしてミナの秘部を露にした。 
そして、シホが用意したバイブを一気にミナの秘部の入り口へ挿入した。 
「キャーー! ああ! あぁ〜! あぁぁぁ〜!」 
口から妙にかん高い声で、喘ぐというより叫び始めたミナ。 
バイブがじりじりとミナの秘部で機能すると、ミナは体をピクピクさせながら愛液を存分に分泌する。 
「あぁぁぁ〜! こ、壊れちゃう〜! あっ! あぁぁ……、頭の中……、壊れちゃうよぉ〜!」 
口は半開きで唾液がトロトロと漏れ、秘部から愛液という具合で、ミナは乱れた。 
「はあぁぁぁ……、か、感じちゃってぇ〜、感じすぎちゃいますぅ〜!」 
ミナの絶頂感が極まった所で、バイブを抜き、代わってフィンガーファックで責めた。 
すると股間から何やら液体が瞬間的に放出された。 
(ついに失禁しちゃったか?) 
その液体は、薄明かりの下では尿のように見え、そうでないようにも見える。 
(わかった! 潮吹きだ!) 
 
「ああ〜! あぁ〜ん! オシッコ噴き出しちゃうしぃ〜、もう、メチャクチャ〜〜!」 
ミナは潮吹き現象を失禁による放尿と思い込んでいるようだ。 
わざとミナの秘部をプール側に向けさせ、脇からフィンガーファックを続けると、断続的に潮吹きが続き、それがプールの水面に飛び散った。 
「いじわるぅ〜。あ〜〜。もうガマンできない〜。あなたの立派なやつを……。アソコにズブッと……、突っ込んじゃって下さいよぉ〜〜!」 
「や、やっちゃうよ」 
卓巳は言い終わると、いよいよ自身のモノをミナの秘部に挿入し、最終目的の結合を果たした。 
「あっ、あっ、あぁ〜〜! いい! いい感じぃ〜〜!!」 
それまでの風俗取材経験にものを言わせて、卓巳は力強くピストン運動を展開。 
「あー、あー、あーん! ああぁぁぁ〜〜! イ、イッちゃうのも、時間の問題かも〜〜!」 
 
 
− エピローグ − 
 
後日、思わぬ事態が発覚した。 
例の賭博システムからの配当金が当事者の口座に振り込まれないのだ。 
掛金と配当金の相殺が頻発するので、クレジットカード同様、月一回の締め処理で掛金と配当金の口座移動がなされる。 
表向きはネットでの商品売買という扱いである。 
裕福な会員だから、即座に配当金が振り込まれなくても問題なかったが、一ケ月分の配当金が正常に処理されないという障害には問い合わせが相次いだ。 
 
賭博システムはSLAの会員が経営するソフト会社で極秘に開発されたもので、障害の原因調査が依頼された。 
調査の結果、賭博配当金は全て特定の口座に振り込むように手続きを改ざんするウィルスプログラムが発見された。 
しかも賭博配当金ばかりか、従業員への給与も同様の被害を受けていた。 
違法賭博の発覚を恐れてSLAオーナーは警察への届出をせず後処理を画策したが、やがて内部告発により、警察に内情を知られることになった。 
 
卓巳は警察から重要参考人として事情聴取に再三応じる破目に陥った。 
警察の捜査では、ウィルスプログラムが卓巳の携帯電話を経由して仕掛けられたことが判明したのだ。 
犯人の一人と疑われても仕方がないことである。 
事情聴取で吉岡正造の名前を出したが、彼は消息不明で警察でも行方を追っているとのことだった。 
同様にシホと男性従業員一人も消息不明と聞かされた。 
 
(吉岡のオッサンが首謀者なんだろう。俺の取材に協力したのは、俺を犯人と思わせて混乱させるため……。そして、俺がVIPルームで過ごす間に俺の携帯を操作し、どこかのサイトに保存してあったウィルスを賭博システムに潜り込ませた……。シホは共犯で俺の気を引かせる役、ウィルスを仕掛けたの男の従業員だろう) 
 
しかし吉岡とシホが捕まる迄、真実はわからない。 
その一方で卓巳とミナはその後も続いた。 
二人の夜は、競泳水着の上に全身枷で縛られたミナが激しく喘ぎ声を上げる。 
「ねぇ〜、早くぅ〜、タクちゃんのアレを激しくブチ込んでぇ〜。ミナ、もう待ち切れないんだからぁ〜!」  
(終わり) 
 
  
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