トップ 投稿小説ライブラリー 「銀英伝#05 〜ネックリンガーの冒険〜」 はむねも様
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「銀英伝#05 〜ネックリンガーの冒険〜」 著者: はむねも様 投稿日: [2022.09.18]

芸術家提督の憂鬱


帝国領は辺境、人魚座(マーメイデン)⊿(デルタ)宙域。
大小様々なアステロイド・ベルトの中を自由惑星連盟の偽装艦隊が航行していた。

「 敵 襲 ( ア ッ ラ ー ー ー ム )!!! 」

けたたましく艦内の警報が響き、各々の艦は回避運動を取ろうとするが、意表を突かれたため逃げる隙もなく、瞬く間に砲火を浴び撃沈されてゆく。

艦隊を絶好の位置から急襲するのは、銀河帝国軍ジークハルト・フォン・ローエングリン元帥付幕僚が一人、エルンスト・ネックリンガー中将率いる高速艦部隊であった。

「お見事です、閣下」
「うむ、やはりかの情報は確かだったようだ」
旗艦アポローンの艦橋にて冷静に戦況を注視する彼は、いかにも軍師然とした雰囲気で、丁寧に整えられた口ひげを思慮深げに撫でながらそう答えた。

先んじて、”連盟軍の偽装工作艦群が帝国領内に侵入の兆しあり”との報が、セザーン自治領より帝国軍にもたらされていたのだ。
ジークハルトから、その堅実な軍略家としての資質を買われたネックリンガーは、直ちに敵艦隊の”探索と監視”、ならびに場合によっては”撃滅せよ”との命を受け、この小惑星帯に伏陣していたのだ。

攻防は数刻を経ずに決した。
まさに芸術的とでも言うべき無駄のない計算された艦隊行動は、ネックリンガーの優れた知略をもってしてのことである。
「閣下」
「…うむ、何か?」
「敵艦隊は完全に沈黙。我が方の損害極めて軽微。また、敵の大破、航行不能艦より投降信号をキャッチしております」
中将は手をかざし、部下に合図を送った。
「ここで無益な血を流す必要はあるまい。降伏の意思を示した者には、連盟との戦時暫定協定 第13条7項に基づき、捕虜として処遇するよう伝達せよ」
「承知しました」
「それから、周辺宙域にまだ敵の別働隊が潜んでいるやもしれぬ。引き続き索敵警戒を怠らぬよう全軍に下令し給え」
「はっ!」
…いつもながら、閣下の戦いぶりは、じつに謹厳実直でいらっしゃる。しかし――。
このとき、副官のフォルスト少佐は、稀に見るネックリンガーの疲労を拝察した。

「閣下、少し休息をお取りになっては?」
「あ、いや、すまない。敵に気取られまいとして、敵艦隊の行動予測からこの小惑星帯に絞り網を張って待っていたが―。私としたことが、計画指揮に少々熱を入れすぎてしまったようだ」
肩をすくめながら苦笑し部下の心配を取り去ると、ふいに全天型のスクリーンを見上げ、遠目がちに呟いた。

「…だが、こうして艦の上で指揮を取っているときでさえ、ときどき、自分が軍人だということが、まるで夢か何の様に思えることがあってな。
自 分 が い る べ き 場 所 は こ こ で は な く 、も っ と 別 の と こ ろ に あ る の で は な い か 、と――」
「…」

「いや、失言であった、私も”乙女魚の呼び声”に当てられて、埒もないことを云ってしまったかな。今の言葉は忘れてくれ給え。それよりも、敵軍の目的を調べることの方が先決だ」
「はっ、承知いたしました!」

この時フォルスト少佐が感じとった かすかな違和感は、後に起こる ある事件の前触れであったかもしれない。
しかし、この時点でそれを知る者は、まだ誰一人いなかった。


戦場から劇場へ―von Kampf zu Kunst


ネックリンガーは、首都星ウォーディンに帰投すると、報告のため直ちにジークハルトが待つ元帥府へと出頭した。
「…とすると、連盟軍、もとい叛乱軍は、吾が帝国の各星系領民に、内乱の機運を植え付ける工作のため潜伏していたというわけか?」
「左様です」
「共和主義の反徒共め。正攻法で勝てる見込みがないと悟るや、かように悪辣な手段をもってするか!」
「おっしゃる通りかと。ですが、調査の結果、残念ながら、今回船で拿捕した者以外に、すでに多数の工作員が帝国領内に潜入していることは確実かと」
「偽の情報(フェイクニュース)を用いた世論操作か――。
軍に対する臣民の支持の動揺は、全軍の指揮にも関わるからな。…だが、この方面の対応は…、グラウシュタインの領分だな」
「グラウシュタイン大佐―。確か、安全保障局から出向中の?」
「ああ、この程、吾が元帥府へ転属となった」
ネックリンガーは少し驚いた様子で、思わず補佐席に控えるクラウスの方を一瞥した。
「左様でしたか。いえ、閣下の前でいささか申し上げにくいことながら、あの者に関しては、あまり芳しい評判を聞きませぬゆえ」
「卿の言いたいことはわかっている。だが、あやつは、艦隊指揮の知略では卿に及ばぬが、政事の計略においては有能な男だ。――それに、ただグラウシュタイン一人を使いこなせないようでは、銀河の統一など望むべくもないではないか。そうであろう?」
「御意!」



ネックリンガーが執務室を後にすると廊下の向こうからロイゼンタール、ビッテンフォルト両提督が現れた。

「おや、めずらしい取り合わせですな」
「卿は、俺の隣にいるのが”狼から猪に変わった” などと、一々言い立てるつもりかな?」
開口皮肉を飛ばすのは、金銀妖瞳(ヘテロクロミア)のオスカル・フォン・ロイゼンタール中将である。「帝国軍の双璧」の一つをなす一流の武人であり、冷静沈着かつ大胆な指揮に定評がある。
「卿も帰ったところか」
「ああ、ちょうど閣下に報告を終えたところだ」
「ミューラー閣下も、小官にご命令下されば伏兵の一つや二つ、吾が「漆黒槍騎兵 パーシヴァルツ・ランツェンレイター」 の機動力をもって、跡形もなく粉砕してご覧に入れたのだがな」
「今回の敵は、情報戦、認知戦を仕掛ける工作部隊だろう。となれば、”持久戦”だが貴官向きの仕事ではなかろう?」
そうロイゼンタールに肘を掣かれ、ビッテンフォルトはちょっとムスッとした顔を浮かべた。
「それはそうと、何やら宮廷(ノイエ・サンスーシ)の方が騒がしいようだが―」
「それなら、ちょうど今、宮廷で芸術祭(フェスタ)が開かれているのですよ」
「ほう、それでは卿のもう一つの顔である「芸術家提督」としても忙しいな。卿も出品するのか?」
「いや、今回は。しかし、芸術協会アカデミー会員として招待を受けている」
「では、その見識ある卿の眼鏡にかなう芸術家を挙げるとすると、誰になる?」
ロイゼンタールは直截に訊ねた。
「そういうことになると、やはり、リヒャルト・ワーゲネル氏を挙げざる得ないでしょうな」
「ほう」
「弱冠ながら、実力で宮廷主任芸術家 兼 歌劇場監督(デア・マイスター)に抜擢。格調高い貴族芸術も良いが、彼が唱える前衛的な「宇宙芸術 コスミッシュ・クンスト」という構想には、人類文化の新しい可能性を見て取るべきだろう」
「なるほど。”宇宙こそが人類の進むべき未来である” か」

「ふん、芸術など、所詮 紙の上に油(エール)を塗りたくっただけの代物ではないか! 武人ならば工房の筆でなく、戦場で剣を交えるが本懐!」
それまで退屈そうに話を聞いていたビッテンフォルトが割って入る。
それを聞いた二人はやれやれと同情の念を浮かべた。
「卿はネックリンガーに倣って、もう少し”文化的素養”というものを養うべきだな」
「俺 に は 芸 術 の こ と は わ か ら ん !」

*  *  *

銀河帝国 宮廷主催の芸術祭会場。ここには、帝国中の有力貴族や貴婦人、お抱えの芸術家が集まって活況を呈していた。
帝国において、芸術家の最大の依頼人(パトロン)は貴族たちであり、ここは、貴族にとっては自らの富と権力を誇示し、また芸術家にとっては作品を発表し、売り込む絶好の舞台ともなっていた。

ネックリンガーは宮殿の画廊に掛かる一枚の巨大な油彩画の前で立ち止まった。
絵には、下半身が魚の妖しげな美女(セイレーン)たちが船に群がり、官能的な容貌と歌声で誘惑しようとしている。そして、その視線の先には、帆船のマトスに縛り付けられ絶叫する屈強な男と、目と耳とを塞がれたまま櫂を漕ぐ下僕たちが描かれていた。
「お気に召していただけましたか?」
声の方を向くと、キュロットと深翠のフロッグコートに貴族風のクラバットを巻いた、ゲルマン系の彫りの深い男性が立っていた。
「この絵のモチーフは、ホメロスの『オデュッセイア』ですかな?」
「如何にも。吾が工房(アテリエ)で制作させた新作です。名だたる諸侯の皆様からもご好評いただいておりましてな。ですが、もしよろしければ、”閣下には特別の価格にてご提供させていただきますよ”」
彼は声のトーンを下げ耳打ちすると、踵を返して慇懃に辞儀を表した。
「申し遅れました、私はリヒャルト・ワーゲネルと申します。ネックリンガー閣下、今日はお会いできて光栄です」
「マイスター・ワーゲネル、これはご丁寧に。非常にありがたいご提案だが、この大作を飾るには、私の家はいささか狭小にすぎるようだ」
「ご謙遜を。どうぞ作品は他にもありますゆえ、ゆるりとご観覧じくだされ」


さらに奥へ進むと、作品の周りに人だかりができ、何やら穏やかならざる論評を囁いていた。衆目が集まるの先にある絵を目にし、ネックリンガーは驚愕した。

その写真のように精緻な絵画には、紅いトーガを纏った沢山の男たちが円形の広場を囲んでいる様子が描かれ、彼らが一心にその好奇な視線を注ぐ先には、一糸まとわぬ美女が立たせられている。
そして、その傍らでは、彼女を今しがたまで覆っていたであろうベールを剥ぎ取った剛毅な男の迫真の姿が描かれている。
美女は恥ずかしさからであろう、両手で覆い顔を背けているが、哀れなるかな、その行態自体が、かえって美しい脇を光の下に曝し、観衆の烈情をより掻き立ててしまっているのだ。

…なんと破廉恥な!
…ああ、じつにけしからん!
…いや、これはこれで良いのではないか?!

この絵に一同が当惑したのにはそれなりの理由があった。封建体制をとる銀河帝国では、神聖な神話の物語を例外とすれば、女性が公の場でみだりに肌を露出するなどということは禁忌とされていた。それはたとえ芸術とて例外ではなかったのだ。

「西洋史時代の絵画が下地ですが、いままさに裁きに架けられる娼婦の姿をご覧いただきたい。この白磁の様な肌の輝き。じつに見事でございましょう?!」

「…マイスター・ワーゲネル、これもあなたの作ですかな?」
「いかにも!」
いかなる屈託もなく自作を誇る彼に、ネックリンガーは背後越しのまま言い放った。
「私も芸術家の端くれだが、あなたとははいささか美的感性を異にするようだ。今日はこれにて失礼させていただく」
「そう急がれずとも、お待ち下さい! 閣下!!」
こうしてネックリンガーは早々に会場を後にした。


来訪者


同日、ネックリンガー私邸。
疲れを感じ、早くに床に就いたネックリンガーは、不思議な夢の中にいた。
展覧会で観たあの絵の奴隷女のイメージが鮮烈に蘇っていたのだ。
だが、それは決して快楽からではなかった。むしろ、全く逆に、いわく名状しがたい「不快な感覚」からのものであった。

…なぜだ、なぜ、これほどまでに心をかき乱されるのだ。一体何が!?


「…旦那様、…旦那様」
執事の呼びかける声で目が覚める。
「旦那様、お休みのところ恐れ入ります。旦那様にお客様がお見えなのですが…」
「来客だと。誰かね?」
「はあ、リヒャルト・ワーゲネルの弟子だと名乗るお方で、どうしても目通りをと云われ…もう主人は休んでいるとお伝えしたのですが、念のためご確認をと」
「わかった。すぐに行くのでゲストルームでお待ちいただくよう伝えてくれ給え」
執事が引き取ると、彼は私用の上着を羽織り部屋へと向かった。

「お待たせして申し訳ない」
部屋で待っていたのは、齢二十そこそこと思われる、特徴がないのが特徴といったところの薄顔、碧眼の青年であった。

「夜分遅く恐れ入ります閣下。私は、リヒャルト・ワーゲネルが弟子のアルバート・ハンス・リューゲルと申す者です。
本日は不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。本来ならワーゲネル本人がお伺いし申し上げるべきところ、畏れながら不肖の私めが代理として参上し給わった次第です」
「それで、わざわざおいでくださったのか。いや、こちらこそ先ほどは失礼な態度をとって申し訳なかった」
ネックリンガーは彼に席に着くように促し、自身もテーブルに掛けた。
テーブルの上に置かれた燭台の蝋燭の火が、互いの姿を浮かび上がらせている。

「いささか大胆な趣向ではあると思うが…、本来、芸術の精神とは「自由」なのだ。多少”前衛的”だからというだけの理由で非されるとすれば、それは鑑賞者である私の量見の狭さに原因がある。決してマイスターや卿が謝罪される謂れはありますまい。私ごときが論評するのもおこがましいとは思うが、帝国美術界の要職にあって、美に対する挑戦を厭わぬマイスターの姿勢には、敬服に値すると云うべきだろう」

「ありがとうございます。その言葉を聞けば、吾が師も喜びます。
されば、因習に凝り固まった凡庸な批評家達は、真に芸術が何かをまるで理解いたしません。それに引き換え、閣下は、『誠の教養』をお持ちでいらっしゃる」
ネックリンガーは運ばれてきた紅茶を彼に薦めた。

「――ときに、閣下」
「は?」
「閣下は、芸術において、『裸体』とは何の謂いだとお考えでしょうか?」
碧い瞳の中で灯火が揺蕩う。
「いやはや、これは唐突なご質問ですな」
少し困ったような顔を遣り紅茶を一口すると彼は返答した。
「だが、そうですな。…たとえ挙げるとするなら、自由、平和、愛、無垢なる自然、それに美、といったところでしょうか?」
「流石は提督 、じつに堅実なお答えをなさいますな。ですが――」
と続けて、青年は囁きかけるようにこう云った。
「提 督 は 本 当 は よ く ご 存 知 の は ず だ 。智恵を得たはじめの人間が、なぜ衣を纏う必要があったのか。
『裸体』に伏された事の本質とは、肉欲、闘争、醜さ、罪と堕落、そして、死…。 
しかし、”美の究極の真実とは 、赤 裸 々 に そ の ベ ー ル を 剥 ぐ こ と に で な く 、む し ろ 、そ の 裸 性 を 覆 い 隠 す こ と の 方 に あ る と い う こ と を…”」

突然鋭い視線を向ける青年に、ネックリンガーは、メデューサに睨まれたらかくやのごとく、釘付けになってしまった。

…カツン☆

スプーンがカップを叩く音が鳴り、ふと我に返る。
「おお、もうこんな時間か。あまり永く引き留めてもいけない。どちらからおいでかな? 使いの者にご自宅まで送らせましょう」
「お気遣い、痛み入ります。ではまた改めて、吾が師ワーゲネルとともにお目にかかります」
こうして不意の来訪者は、ネックリンガー邸を後にした。


異変


元帥府。ロイゼンタールが廊下を歩いていると、向こうから来るネックリンガーと行きあった。手には大量の紙の資料を抱えている。
「よう、ネックリンガー。何やら大変そうだな」
「いや何、仕事に使う書類を探していてな。では失礼」
…ほう。



ロイゼンタール提督執務室。
「閣下、ネックリンガー提督の従者の方がお見えです」
「用件は何だ?」
「…それが、なんでも相談したいことがあるとか」
「うむ、ともかく通せ」
すると、戸口に眼鏡を掛けた白髪の男性が現れた。

「ネックリンガー家で使用人をしております、アルフレッドと申します」
「で、ご相談というのは?」
「はい。最近ご旦那様の様子がどうも変なのです」
「変というのは?」
「はい。普段、旦那様は夕食を取られた後、自室でお休みになるのですが、ここのところ、どうも寝室で誰かとお話になっておられる様なのです」
「たしかネックリンガーには妻はなかったな」
「はい、旦那様は独り身でいらっしゃいますが」
「存外、何処ぞのご婦人でも連れ込んでいるのではあるまいか」
「と ん で も な い ! 旦那様に限ってそのようなことはございません!」
アルフレッドはテーブル越しに身を乗り出して主人の身の潔白を訴えた。
「うむ…、許せ、失言であった」
ロイゼンタールは若干のバツの悪さを感じて辞儀を正した。
「それに、寝室は階段の上で、屋敷は扉も窓も施錠しておりますし、誰も中に入れるはずはないのです」
「それは妙な話だな。で、その人物に心当たりは?」
「…はあ、それが、今にして思えば、以前屋敷においでになった方だったような気がするのです、が――」
「―が?」
「不思議なことに、なぜかはっきりと思い出せないのです。一度でもお見えになったお客様ならば、決して忘れる筈はないのですが…」
「誰か、最近屋敷を訪ねてきた者はいるか?」
「い い え 、誰 も 」
執事のアルフレッドはきっぱりとした口調で否定した。

「…それで、あなたは私に何をお望みなのかな?」
「私、旦那様が何か良からぬことに巻き込まれているのではないかと心配で心配で…。ですが他に頼れる宛もなく、どうしたらよいのか…」
そう云うと執事のアルフレッドは泣き出してしまった。
ロイゼンタールは事態の深刻さを直感した。
「承知した。俺も僚友として気がかりでないわけではないのだ。解決の確約はできぬが、こちらでも、できる限りのことをするに吝かではない」
「本当でございますか?! ありがとうございます!!」


「…で、なんで俺まで協力せねばならんのだ!」
ビッテンフォルトは反発した。
「頭数が必要になるかもしれぬ。それでいて、事は隠密に行う必要があるのだ」
「俺のもっとも苦手な分野ではないか! それならミッドマウアーあたりに頼めばよかろう!」
「そうしたいのは山々だが、今あいつは外地任務でここにはおらん。それに…」
とロイゼンタールは言い淀んだ。
…俺の嫌な予感が当たらなければ良いのだが――。


潜入、ディオニュソスの秘祭


「では、お先に失礼するよ」
「はっ、閣下」
夕方、ネックリンガーが乗る車が庁舎を立つ。

すると、その後ろからロイゼンタール、ビッテンフォルトの乗る車が尾行する。
「こんなことで何がわかるものか」
「おい、たしかネックリンガーの家の方角は逆ではなかったか」
「途中寄るところでもあるのだろう」
車は旧市街の端に立つ寂れた教会前に停車すると、ネックリンガーは一人で建物の中に入っていった。
日暮れの陽が、ゴシック様式の独特のフォルムを古びた石畳に映している。
ロイゼンタールとビッテンフォルトも後を追う。
「中に入るぞ」
「あ、ああ…」
二人が講堂に入ると、そこには祭壇と椅子が整然と並べられていた。
どうやら永い間使われていないらしく、あたりは塵が積り、信仰の対象たる聖像は朽ち果てている。
辺りはただ空虚な静けさが広がり、薄汚れたステンドグラスからは、衰えた光がわずかに差し込んでいるばかりであった。

「やつはどこへ行ったのだ?!」
「あれを見ろ!」
ロイゼンタールの指す先に、祭壇の地下へと続く隠し階段があった。
…当たり、かな?
そのとき、ビッテンフォルトは、ロイゼンタールの顔が一層険しくなるのを感じた。

仄暗い地の底へと続く長い階段を下り、いよいよその先を覗き込む二人。すると、そこには驚くべき光景が広がっていたのだ。



冥い地の底には、洞窟のような空けた地下空間が隠されていたのだ。
エンタシスと呼ばれる円柱がくり抜かれた四囲の石壁を支え、その中心では、月桂の冠を被り、牡牛や鷲、駱駝、獅子など様々な仮面を着けた数十人の男女が円陣を組み、ある者たちは禍々しくも魅惑的な声を張り上げ異境の歌を、ある者たちは鐘や太鼓などの楽器を鳴り轟かせながら乱舞する。
そして、その影を松明のかがり炎と煙が壁に映し、さらには辺りに撒かれたスパイスとエキゾティッシュな芳香とが相まって、場全体に独特の熱気とうねりをもたらせる。

「こいつら、一体ここで何をしているのだ?」
「おい、あそこを見ろ!」
猛る群衆の先にいるのは、
「あれは、ネックリンガーではないか?!」
その彼とおぼしき人物は、下着以外何も身に着けない姿で床に座らされ、首と両腕には錠が嵌められ、鎖に繋がれている。

炎柱が一層激しく燃え上がり、群衆のボルテージが最高潮に達すると、布の上に奇妙な魔法陣が描かれた舞台の上に一組の男女が現れた。
やはり両者ともマスカレードで目元は見えないが、男は隆々とした肉体に腰布をまとい、額には黄金の蛇の頭冠を頂いている。
女の方は、長い焦げ茶色の髪を常春藤(キヅタ)で留め、膝丈のローブを大胆に脱ぎ去ると、遠目からでもわかる白く滑らかな肌を衆目に曝すと同時に、紫色のハイレッグ・スーツによって胴体が覆われていたのだ。

「いったい何が始まるのだ? それに、見たこともない妙な格好だが…」
ビッテンフォルトが訝しがるのも無理はない。帝国では従来、女性が公衆の面前で四肢を明かすこと自体がタブーとされており、ゆえに 体のラインをはっきりと映し出す“ 競 泳 水 着 ” など、彼にとっては、まったく奇異な代物以外の何ものでもなかったのだ。

ネックリンガーの目前で、二人の男女は近づき抱き合うと、互いの身体を愛撫し始めた。
そして、その度ごとに美女の着衣は、光に照らされ、まるでブルームをふいた甘い葡萄のごとく、艶かしく光沢した。
逞しいやけた男の腕が、さながら樹を這い上がる黒い大蛇のように女の躰にまとわり這い回り揉みしだくと、そのピンと張り詰めた布が”着衣に覆われた”果実の形を強調する。

女は恍惚とした吐息を漏らしながら、高台の皿に盛られた葉付きの紅い葡萄に手を伸ばすと一粒を咥え、口伝てに男と分かち合った。
蛇の男は唇と舌で女が与える蜜を吸い求めると、堪らず自身の昂奮し猛るモノを彼女の身体に押し付ける。
上気し頬を染めた女は、微笑を浮かべるとそろそろと膝を屈し、腰布の上から果汁塗れの唇で接吻すると、そそり立つファルスに直接舌を絡みつかせ舐め上げ、聖別する。
唾液と果汁、それに牡の涙の混ざった粘り気のある液体が糸を引き、口元から胸元へと掛かり粘性のある光を反射する。

「ぬっ、なんと下品で下劣な!! 俺はもうこれ以上は耐えられん、突入する!」
「早まるな、ビッテンフォルト!」
いきり立つビッテンフォルトを冷徹な眼差しをもって制止するロイゼンタール。
「まだ敵の正体も目的も掴んではおらんのだ。ここはもう少し辛抱して、事の成り行きを見極めようではないか」
「くっ、承知した…」

美女がその艷やかな髪を解き地に散じ仰向けになると、男はその鋼のように屹立した一物を彼女の秘部にあてがって、さながら獲物を見定めた蛇がチュルチュルと舌で舐め回すがごとくに女の秘部を水着越しに刺激し始めた。

「ディオニュソス…」
固唾を呑んで状況を注視するローゼンタールがつぶやく。
「ディオニュソス? 何なのだそれは?」
ビッテンフォルトは訝しげに訊ねた。
「…いつか聞いたことがある。『ディオニュソス』とは、神話の時代より伝わる、偉大なる神の名だという」
「…それがこの状況とどんな関係がある?」
「…いわく、その神の”化身”は、あるいは「葡萄酒」であり、あるいは「蛇」でもある」
「…」
「そして、故郷を追われ、狂気に駆られたかの神は、おのが呪術によって人々を酩酊の淵へといざなうと、みずから軍勢を率い、やがて地上を支配し給うた…」
「これが、その儀式だとでも言うのか?! しかし、これは――」

ハアハアと息が上がり、その高まる鼓動に呼応するかのように、囲む群衆の熱狂とテンポが激しく昂められてゆく。

…お願い、もう 挿 れ てぇ。

息も絶えゞに、絞り出すような声で切なく訴えかける女。その秘部からは樹液が染み出し、しっとりと湿潤した染みを作っている。
だが、他方男の方も我慢の限界なのだ。彼は股布を脇へ押しやると、膨張した件の蛇を一気に奥深くまで突き刺した。
歯を食いしばり「うっ!!」と苦しそうな呻きを上げ反り返る女。辺りは一層の歓声と叫びに包まれる。

地響きを轟かす太鼓や地ならしとともに、油送され、声を上げ、髪を振り乱し淫らに身体を仰け反らす美女。
法陣の中心で局部を結合し、逆三角に組まれた男女の脚が卑猥な図形を形作った。
その度に水着に包まれた肉が内で弾ける、いや、むしろ、その水着と肉とが人衣一体となったかのように波打ち、そして、混然となってほとばしる身体中の分泌液が彼女の水着に飛び散り、無慈悲に穢す。

その壮絶な光景を目前で見せつけられていたネックリンガーは、口からはだらしなく涎を垂らしながら、大声で聞いたこともない異言を喚き散らす。
そして、自らもおのが”かしこ”へと手を触れて快楽を得ようとする。が、哀れ、手錠によって縛られ、”その行為”を阻まれてしまっている。
それでも何とかして鎖を引きちぎろうと足掻く今の彼に、気高き軍人の姿はない。正体がなくなり、もはや盲目の性欲のみが彼を突き動かしているのだ。

…知りたい!! 私は、…その喜悦を!! …そのベールの先にある至高の… 内奥の神秘に触れたいのだ!!

すぐ目の前にあるのに届かない――。
…いまここで、もし“それ”ができたなら、どんなに素晴らしいだろう!

声にならない悲鳴をうちに閉じ込めて“それ”を渇望し求めれば求めるほど、吾が身は紅蓮の炎によって焼かれ、焦がされ、悶え苦しむ――。

気がつけば、周囲の人間達は互いにまぐわい、誰もが享楽の宴に耽っていた。
そこかしこで姦淫し、悲鳴にも似た淫らな声が響き渡る。
気を失うほどの目眩と絶叫、そして、途方もなく”不快な吐き気”をも催す、壮絶な光景が広がる。

ねじ切られるような苦痛と至高のエクスタシー。混沌としたグルーブとバイブスがクライマックスに達すると、いよいよとばかりに、祭壇の上の男が雄叫びを上げながら乱暴に激しく腰を叩きつけ、そして、彼女を主体性のない単なる器と化して責め立てていく。

…お 願 い だ 、も う 沢 山 だ !! 頼 む か ら も う 赦 し て く れ !!!

蛇に果実が貪り食われるように、目の前で犯される美女。
永劫の責苦に悶絶するがごとく、ネックリンガーはクシャクシャに顔面崩壊し、血のような涙を流して赦しを請うが、必死の願いは無慈悲に放置される…。

…とくと知るがよい。
苦 痛 は 快 楽 で あ り 、呪 い は 幸 い で あ り…
そして、永 遠 と は、こ の 瞬 間 な の で あ る !

ついに、蛇の男は、身体の奥で張り詰めた糸が切れるように解き放たれると、濁流が押し寄せるがごとく一気に決壊、腰の奥底から快感が揚がり、頭頂へと駆け昇り、絶頂する――。




しばらくの埒のあと、淫蕩なる穴からえぐり引き抜かれた肉塊は、あたかも独立した一箇の器官であるかのようにビクンビクンと不気味に脈打ち、萎えることなく幾度も卑猥に痙攣しながら、止めどもなく白濁とした液体を女の身体の上に射精。極薄の着衣に覆われた彼女の腹と胸にいやらしい成聖(デコラツィオン)を施した。

「もう堪えられん、行 く ぞ !!」

ビッテンフォルトは、持ち込んでいた対戦車ロケットランチャーを担ぎ仰げると、祭壇の天井に向けて発射した。

キャーーーー!!!!

炸裂した弾丸と崩れ落ちる天井や壁によって、周囲は人々の悲鳴と爆風の土煙に覆われた。
「ネックリンガーを救出するんだ!」
ロイゼンタールとビッテンフォルトはすぐに祭壇の方へと急いだ。
「おい、ネックリンガー、しっかりしろ!」
ぐったりと憔悴しきった彼の錠を破壊し、肩に担いで出口の方へと向かおうとしたその時、
「あなた方軍人というヤツは、本当に度し難い」
若い男の声が響き、足が止まる。

「この至高なる儀式を、台無しにしてしまって平気だというのだから」
ロイゼンタールは声のする煙幕の彼方へとじっと目を凝らす。
「貴様、何者だ?」
「貴方がたには到底理解できないでしょうな。だが、その中に、ごく僅かだが例外も、いる…」
…パチンッ☆

「うお、何をするんだッ?!」
…!?
振り向くと、ビッテンフォルトの肩に背負われていたネックリンガーが、奪った銃をこちらに向けていた。だが、その瞳に光は戻っていない。

「才気に富んだ百戦錬磨の英雄にして、あてもなく虚無の大海を彷徨う憐れなオデュッセウスよ。そう、ネックリンガー、おまえこそ『本当の美』が何であるのかをよく弁えている稀有な存在。
だからこそ、吾らが偉大なる源である『宇宙(コスモ)』への神聖にして卑猥なる贄(にえ)に相応しい!」
「なん…だと…?」
「強制催眠か!?」
「さあ、ネックリンガーよ! その自らの手で、この統一された『宇宙(コスモ)』に仇なす異教徒共に神の鉄槌を!!」
「や め る ん だ ネ ッ ク リ ン ガ ー !!」
ビッテンフォルトが制止する声も届かず、ネックリンガーは虚ろな目で、まさに銃口のトリガーを引き絞ろうとしていた。
と、その時…
「おい、ネックリンガー! よ く 見 て お け !」
そう言い放つと、ロイゼンタールは、手にした銃の向きを反転すると、なんと自らの脚を撃ち抜いたのである。バランスを崩して、そのまま固い地面に叩きつけられた。
一体何が起こったのか? その刹那、この場にいる誰もが驚愕し、時の流れが永遠に停止したかのように思われた。

「…ネックリンガー! ヤツは、柱の上にいるぞ!!」
ビッテンフォルトは上空の気流のわずかな乱れを見逃しはしなかった。
…くっ!
発射されたブラスターの光点は、その人物の額の中心を正確に撃ち抜いた。
そして、その身体は、”重力”というこの宇宙の不変の摂理によって、大地の底というあるべき場所へと過つことなく導いた。撃ったのはネックリンガーだった。

ビッテンフォルトの通報により、ただちに軍警察が殺到。ネックリンガーと負傷したロイゼンタール、それに集会の参加者たちが無事保護された。


あのとき自分自身を撃った訳は…


「宇宙教?」
数日後、事のあらましを報告すべく、ビッテンフォルト、ロイゼンタール、そして、ネックリンガーの三提督は揃って、ジークハルトが待つ元帥執務室へと出頭した。
「はい。自己と宇宙(コスモ)との一体化を信仰する非公認のカルト教団で、妖しげな衣裳を用いた秘密の儀式を催しては、彼らいわく、この宇宙に偏在する”波動”(コズミックバイブス)と共鳴することで、真実の世界へとアセンションできるという…」
「バカバカしい」
傍らで報告書を読み上げるクラウスの声を呆れ顔で遮るジークハルト。
「催眠をかけられていたとはいえ、吾が軍の機密情報の漏洩を手引し、あまつさえ救援に駆けつけた僚友を害する愚を犯すところでした。まったく面目次第もございません。小官は、閣下のいかなる処断も受け入れる所存です」
跪き、頭を垂れる彼に、ジークハルトはクラウスの方を一瞥し頷くと、一呼吸あって次のように述べた。
「卿のその覚悟やよし。だが、もしここで卿を処断すれば、それこそ先方の思うつぼであろう。今時の失敗は次の成功で挽回すればよい」
「はっ!!」

…だが、それにしても、神殿にいたというこの女の格好は…。
ジークハルト様、どうかなさいましたか?
「いや、気にするな、何でもない!」

執務室を後にする一行。
「そう気に病むな、ネックリンガー。幸い俺の傷の方もこの通り大したことはなかったのだ」
「あのときは、さしもの俺でも肝を冷やしたぞ。だが、卿はなぜあの場で”相手”ではなく、自分自身を撃ったのだ?」
ビッテンフォルトが怪訝な顔で質問する。
「さて、俺にもよくわからん。…だが、強いて言えば、一つの 芸 術 的 閃 き…」
「芸術的、閃き?」
「極限的な状況で、どうしても得たいものを手に得ようと欲するなら、卿ならどうする?」
「そんなもの決まっている。正面から猪突し、奪い取るのみ!」
「であれば、吾々は今頃、あの教会の冥い地下の骸になっていただろうな」
「…では、どうすればよいと云うのだ?」
「うむ。こう考えるのだ。そ の 得 た い 当 の も の を 、 逆 に 、い っ そ 相 手 に 差 し 出 し て し ま え ば よ い の だ、と」
…?!
ふと、ネックリンガーの歩が止まる。
二人が振り返って見ると、彼はいたく感じ入ったように瞳を潤ませていた。
「私は得難い経験をした。どうやら、驚嘆すべき芸術が生まれる場所というのは、工房の中だけではなかったようだ」
「左様。卿もわかってきたな!」
何やら通じ合う二人から疎外感を感じ取ったビッテンフォルトは、建物の中にいる誰もが聞き取れるほどの大きな声で言い放った。

「や は り、俺 に は 芸 術 の こ と は わ か ら ん !!」




後日、ネックリンガー邸を訪れたアルバート・リューゲルと名乗る青年が宇宙教徒の一人であったことが判明した。
ワーゲネルが宮廷主任芸術家(マイスター)の職を辞したのは、それから程なくしてのことであった。


ネックリンガーの冒険
Ende




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