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「シン・ウラシマタロウ」 著者: はむねも様 投稿日: [2022.04.03]

シン・ウラシマタロウ

 第1話 接触


「自由は、開示しつつ秘匿するものであり、その明るみ(Lichtung)のうちにおいて、あのヴェールが翻る。このヴェールはあらゆる真理の本質発揮したものを覆い隠し、そして覆い隠すものとしてそのヴェール自体を現出させるのである」

 ―― マルティン・ハイデガー「技術への問い」より


二〇〇年前から来た男


時は西暦二二八〇年。神奈川県 相模湾海岸―
初春の晴れ渡る空。幾度も打ち寄せる白波の前に、青年が一人呆然と立ち尽くしている。
海水が触れた素足は土で汚れ、顔貌は伸び散らかした髭で髪も乱れ、ただならぬ様子である。



「で、身元は?」
「現在確認中です!」
土被りの根菜のような粗野な印象の男は、その体をすっぽり覆う大ぶりのソフトスーツの上着を羽織ると、部下に事案の概要を確認しながら、慌ただしくオフィスから廊下を抜けその先の取調室へと向かった。無機質な床のリノリウム張りがコツコツと靴の音を響かせる。
ノブをひねり部屋に控えるのは件の青年である。

「県警のイシバです」
そう告げると、刑事はゆっくりと事務用の椅子に腰掛け、対面の男に語りかけた。

「あなたは、由比ヶ浜海岸に一人でいるところを警察に保護されました。
あなたの住んでいる場所、自分の名前はわかりますか?」
「・・・・」
刑事はその外見に似つかわしくない、やや甲高く繊細な声で問いかけたが、対する男はしばし無反応に虚空を見つめ、埒をあけふいに思い出したように口を利いた。

「ウ ラ シ マ ・・・」

「ウラシマ、ウラシマさん! それがあなたの名前ですね?」
「住所、氏名ともに、身分証明につながる所持品なし――」
「どうした?」
刑事が問いただす。
「はい、歯型照合の結果、過去の医療カルテに該当者が見つかりました。ですが、その――、
彼は一瞬言いよどみ、告げた。
「二 五 八 年 前 に 海 難 事 故 で 行 方 不 明、後に死亡扱いになっています」
「二五八年前?! 何かの間違いじゃないのかね?」

驚きのあまり刑事は背もたれに手をかけ、眉間に皺を作った表情で部下の方を振り返った。
人類の平均寿命は、前世紀の二一世紀中盤にはすでに一〇〇歳を突破していたが、それでも寿命が二〇〇歳に達するなどというのは、まったくの問題外であったからだ。

「何度も照会しましたが、データに誤りは認められません」
情報の正確を認めると、ベテラン刑事は、手に持っていた資料を机に置き深くため息をつくと、その大きく前へ張り出した腹であらためて椅子に深く座り直し、ギョロリとした大きな目でじっと男の方へを見留めた。

「ウラシマさん。かりにこの情報が確かだとすれば、今あなたは二五〇歳を軽く超えていることになります。さながら御伽噺の主人公の様じゃありませんか。ウラシマさん、あなた、本当は一体誰なんです?」

格子窓から差し込む陽の光がしだいに衰え、卓上ライトの光が刑事と男だけを浮かび上がらせる。

「私は――、マ イ ナ ミ――」

そうつぶやくと、ウラシマと名乗るその謎の男は、ゆっくりと事の成り行きを語り始めたのだ。


亀の甲羅の上で


西暦二〇二二年。

黒い谷を切り裂くように、一隻の客船が悠々と海原を進んでゆく。
ナイフのような船体によって切り裂かれた白い波しぶきが潮風に煽られ、船首上部甲板まで舞い上がる。
俺は、その欄干に肘を付き、どこまで続くとも知れない水平線の彼方を漫然と見つめていた。
「エターナル・タートル号」。いつどこで、この船に乗ったのかは覚えていない。気がついたときには、もうここにいたのだ。
…セイレーンの呼び声。
「おい、ウラシマ!」
平面な海を眺めながら愚にもつかない事を思い浮かべていると、船室の扉から顔を覗かせた青年が声をかける。
「なんだおまえか。まだ午後のシフトまでは時間あるだろ?」
「そんなことより見てくれよ、コレ。今度Bデッキにオープンした店で手に入れたんだ。奮発したぜ」
そう云うと彼は左手にはめた金色のバングルを得意げに見せつけた。
その安っぽい金属の色は染めた髪の色と馴染んで、なるほど彼にお似合いに思えた。
「なんだよ、俺みたいな”ちゅーてー民”が付けちゃいけねーかよ!」
こちらの表情を察して悪態をつく。
「アホか。そんなん付けてると、またマネージャーにどヤされっぞ」
「いいんだよ。どうせ服の上からじゃ見えねーし」
そう云うとその戦利品を上下揃いの着古した水色の作業服のすその中に大事そうにしまい込んだ。

こいつの名前はカトー。歳は二十そこそこで俺と同い年。船内では同じ班の仲間で、もう何ヶ月も一緒いる。休憩のプライベートな時間も何かと絡んできて、いいかげんうっとおしい。

「おいカトー。おまえ、自分がいつからこの船にいるか覚えているか?」
「は? おまえ面白いこと云うのな」
少し怪訝そうな顔を浮かべると、欄干を背にもたれて云った。
「気づいたときには船の上。ここの連中はみんな同じじゃねーの?
それよりウラシマこそ、アレはもうやらねーの?」
カトーは海の方を向きかえると、両手でクイと手前に引くデスチャ―をしてみせ視線を遣った。
「あの釣り竿なら、もう長いこと使ってない。どうせ船の上からじゃ釣れないだろうし…」
…ここにくる前は漁師だったのかもしれない。だが、そんなことはどうだってよかった。ただ気晴らしになりさえすれば、何でもよかった。

「あいかわらずだな。ま、おまえと違って、俺には”上”を目指す『目標』と『向上心』があるからな!」



…この船、エターナル・タートル号には、独特のルールが存在した。
全長五〇〇m、一八階建て、乗員一万人を越えるこの超大型豪華客船は、海上に浮かぶ巨大ホテルであると同時に、まさに現実社会の縮図だ。

船内は、「六道階 りくどうかい」と呼ばれる六つの階層から構成され、上から順に「一等客室(天界)」、「二等客室(人界)」、「三等客室(修羅)」、そして、それより下の、通称「底辺てーへん」と呼ばれる下層群からなる。
俺たちはその真中の五等客室(餓鬼)、通称「ちゅうてー民」と呼ばれ、娑婆で借金を抱えた債務者や失業者など、いわゆる「人生の落語者」たちが集められるところであった。

また、三等客室までの者が、正式な「乗客」として様々なサービスを享受できるのに対し、「てーへん」住民には、それぞれの階層に応じた、船内の清掃や警備などの労働が課されるルールだ。
単調な労働は精神を蝕んでゆく。休みは週に一度。月末に僅かな給料が支払われるだけ。それもほとんどが船内の飲食や施設利用費で消えちまう。
だが、それでも不平不満が暴動に至らないのは――。

「おい、おまえら! D班のヤツらが ”どんてーのギバラ”に絡まれて、大変なことになってるぞ! 」
「なんだって!?」
血相を変えて飛び込んできた仲間の後を追って、俺達は作業員用の階段を急いで駆け降りてゆく。すると、一面木箱が山積みにされた巨大な倉庫空間に出る。ゴウンゴウンという機関室のボイラーとエンジンの音が、無数に穿たれたリベットの分厚い鋼鉄の気密壁や鉄骨の天井に伝わって反響している。
そこでは、すでに数十人からの人だかりができており、その緊迫した空気と視線の先には、運搬用のターレットから崩れ中身が散乱した荷箱が転がり、数人の男たちが頭を抱えてへたり込んでいる。

「おうおう! てめーらのお陰で大切な商品がお釈迦だぜ!! どーしてくれんだオイ!!!」
男たちに鬼の形相で罵声を浴びせているのは、後腐れのない連中が巣食う、最下位の第六層(地獄)、通称「どんてー」F区画・貨物搬入班の”ギバラ”ことオトギバラだ。
三白眼の凶相で、獅子のような髭と赤毛の髪、耳ピアスを開けた好戦的な相貌で、睨まれたら最期、五体満足では済まない。噂では元傭兵部隊にいたらしく、人心掌握にも長け、船内で逆らえる者はいない。
件の男たちが涙目になりながら必死で許しを請う間じゅうも、罵倒し続けていたのだ。

「誰も止められね―のをいいことに、一方的に酷でーことしやがる」
傍らのカトーも報復を恐れて小声でつぶやくのが精一杯だ。
おそらく事故は単なるきっかけに過ぎない。本当の目的が、ギバラの力の誇示にあることは、ここにいる誰の目にも明らかだった。だが、こんな状況を打開できるとすれば、それは――

「ソコ・トオシテ!」
不意に声のした方を振り返ると、そこには身長二メートルはあろう真っ黒い影があった。
「ヤッさん!!」
群衆も彼に気づき口々に声を張る。
「なんだ、ヤスケか。テメーの出しゃばる番じゃねーんだよ、引 っ 込 ん で な ! 」
ドレッドヘアーを後ろで束ね、短く整えられた顎髭の製錬な顔つきのその青年は、ギバラのドスの利いた威嚇に対しても微動だにせず、彼とうずくまる男たちとの間に堂々と割って入った。
「カレラ・ワルギナイ。モウタクサン・アヤマッテル」
「んだと! こっちが折れろってーのかオイ!」

そのときの事は、今でもとても印象に残っている。一触触発かと思われた次の瞬間、彼はおもむろに膝を折ると、ごく自然に、淀みない所作で頭を垂れ、地面に額を押し付けたのだ。
その刹那、それまでの殺伐とした場の空気は脱臼し、まったく異なる時空が開かれた。

突然の出来事にわずかに反応が遅れたギバラが声を上げる。
「おい何の真似だテメー!」
「ナカマノツミ・ワタシモイッショ・アヤマル」
すると、群衆のどよめきの中から誰からとなく声が上がり始める。
「そうだ、一人のミスは、全員の責任だ!」
気がつくと、ヤスケに導かれて、俺たちは皆、おのずと同じ行動を取っていた。
全員の心が一つになった瞬間だった。その光景に圧倒されるギバラ。
「こ、このことは上に報告するからな!」
そう捨て台詞を吐くと、取り巻きを従え去っていった。

場の空気が一気に弛緩し、それは即座に歓声へと変わった。
「ヤッさん! ヤッさんがやってくれた!」
「ミンナ・ブジ、ヨカッタ」
彼がみんなから慕われる理由はここにある。この船の掃き溜めみたいな「てーへん」の中で、バラバラの俺たちを身を挺してまとめ上げてくれる。その時、俺は思った。まさに「地獄に仏」とは、こういうことを云うのだろうと。


竜宮城へ


船の一日は早い。早朝に起床するとすぐに作業着に着替え、俺達の班は広大な船内の清掃を始める。なにせ一万人以上が居住する船だ。毎日清掃する場所は違うが、いくら掃除しても永久に終わることはないだろう。
そんな無気力な俺とは対照的に、カトーはテキパキと作業をこなしてゆく。その姿は「ちゅーて―民」の中では、あのヤスケと並んで、数少ない模範といってもいいだろう。

でも、そんな「てーへん社会」にも娯楽はあった。
寄港先から入る酒や煙草、ギャンブルに、ちょっとヤバめのドラッグ…。だが、その中でも最大の娯楽が――。

「俺も『竜宮城』に行ってみたいよな〜」
「なんだよカトー、おまえ亀でも助けたのか?」
「違う、そうじゃないだろ」

こいつのいう「竜宮城」とは、このエターナル・タートル号が誇る遊興施設のことだ。通称「泡姫」と呼ばれるキャストが接待する施設であり、通常の店と違うのは、彼女たちの制服がこの船特製の”競泳水着”であるということ。そして、このサービスを求めてわざわざ乗り込んでくる猛者もいるほどだという。
…まったく、何が楽しいんだか。
「ウラシマ、お前、ほんとにこういうの興味ないよな。性欲ないの?」
「バーカ。それ以前に、お前カネあんの?」
サービスを利用するには多額の金が必要で、「てーへん」住民にはとても手が出ない高嶺の花であった。
「だよなー。やっぱ『オミクジ』に賭けるしかないかな〜」
「今度オミクジいつ?」
「今日!」
「でも、どうせ下層住民のためのガス抜きだろ。当たりっこないさ」

カラン〜 カラン〜♪

「ウラシマさん、大 当 た り !! 竜 宮 城 ご 招 待 !!」
「くそー、よりによってなんでお前なんだよ!」
歯ぎしりして悔しがるカトーを尻目に、俺は仕事終わりに「竜宮城」に向かった。
とくに興味があるわけではなかった。ただ、それこそ、気晴らしになりさえすれば何でもよかったのだ・・・。

店の入り口は朱色に銅葺きの唐門で、欄間には金色の蓑亀や鶴の彫刻が施されている。
門をくぐると、赤や黄、青などの色とりどりの光で満たされた池に、朱色の太鼓橋が架かる。たしかに、ここが海に浮かぶ船の中であることを一瞬忘れさせるほどの設えであった。

「お待ちしておりました、ウラシマ様」
声のする方を向くと、そこには競泳水着を纏った一人の美しい女性があった。

「今宵、ウラシマ様のお相手をさせていただきます、マイナミと申します」

それが、彼女とのはじめての出逢いであった。

つづく




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1831 
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